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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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忘れじの夕映え 探偵奇談8

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しん、と沈黙が落ちた。郁も言葉を失う。それは一体どういう状況なのだろう。青葉だけが幻を見ていたとでも言うのだろうか。

「写真とかないの?その子がいたっていうショーコみたいな」

郁が尋ねると、青葉は首を振る。写真もなにも残ってない。自分の中にある、おぼろげな記憶だけだという。

「…子どもの頃って、自分の妄想の中だけに友だち作っちゃうとかいうらしいんだよね。でもあたしはそんな内向的でもなかったし、なにより他の子とも喋ったり遊んだりしてるの見てるんだよね。あのとき一緒にいたあっくんって、結局なんだったのかなって。これがあたしの不思議な話」

青葉が話し終えると同時にチャイムが鳴った。みんなそれぞれが部活へ向かう準備を始める。

「瀬戸ちゃん、不思議な体験してるんだね。なんか、気になるよね」

青葉にそう伝えると、彼女は教科書を鞄に詰めながら苦笑するのだった。

「まーあたしの勘違いってのが真相なのかなって思ってるよ」

嘘だ、と郁は思う。だって初恋なのに。初恋のひとが、いなかったひとなんて、そんなこと絶対にありえない。声や仕草や心に触れて、ひとは誰かを好きになるのだから。ともに過ごした記憶は真実のはずだ。

「じゃーあたし部活行くね」
「う、うん…」

立ち上がって手を振る青葉を見送る。そのとき、去ろうとする青葉に、瑞が声をかけたのだった。

「瀬戸、ちょっといい?」
「え?あたしいまから部活なんだけど」
「五分でいいから」
「なによもう」

二人は並んで教室の外へ出ていく。

(須丸くんが瀬戸ちゃんを誘った!?な、なんで!?)

郁は立ち上がりあわあわとおたつく。

(みみみ見に行ったらだめだよね?聞き耳たてる?だめ最低!)

でも気になる。郁はそわそわとしながら席につく。ここで待っていてもいいだろうか…。