忘れじの夕映え 探偵奇談8
「青葉ちゃんは、すごいね」
いつだったか、夕焼け空を二人で眺めたときがあった。あれはどういう状況だったか忘れたけれど、その日は青葉とあつしの二人きりだったのだと思う。他の友だちは帰ってしまったのか、なにか用事があって集まれなかったのか。木のそばに座って他愛のない話をしながら、日が沈むのを待っていたとき。
「すごいって?」
「ドッヂボールも強いし、自分の言いたいことはっきり言えるし、かっこいいよ」
男勝りな自分を、青葉は恥ずかしいと思ったことはないし、逆にあつしの言うようにすごいと思うこともなかった。これが自分の自然体だから、意識したこともなかった。女の子なのに、と両親に苦笑されることもあったが、別に気にならない。
「あっくんだってすごいじゃん」
「どうして?」
「優しいもん。いつもにこにこしてて、すごいよ。あたし怒りっぽいとこ、直さなきゃって思うよ」
ススキが、風に揺れて囁くように音をたてる。あつしはしばらく黙っていたけれど、やがて静かに言った。
「…覚えてたいなあ、青葉ちゃんのこと」
それを聞いて、青葉の胸に寂しい気持ちが溢れる。あつしはいつか、町へ帰ってしまうのだろう。彼はこの村の子ではないから、別れるときが来るのだと。
「覚えてたいよ、大人になっても…ずっと…」
,
作品名:忘れじの夕映え 探偵奇談8 作家名:ひなた眞白