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白と黒の天使 Part 3

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朝食を持ってきてやるといい海里さんは腰を上げ廊下を歩いて行った。俺はその後ろ姿を少し眺め、病室に戻った。簡易ベットでは友紀が俺の代わりに枕を抱え眠っていた。

昼頃には友紀が目を覚ませ、俺の枕を抱えボンヤリ寝ぼけた顔をしている。
「友紀、お腹は空いたか?何か食べるか?」
俺に視線を向けるでもなく、首を横に振る。
友紀の笑う顔が見たいのに、青く澄んだ瞳に俺が映るのを見たいのに、枕に顎を乗せ、瞼を伏せてしまう。
「友紀、自分のベットに横になるか?」
いつまでも俺の簡易ベッドに座らせているのも駄目だろうなと、それでも友紀は閉じた瞳のまま頷き、ベッドから足を降ろそうと身じろいだ。
「友紀、俺の首に腕を回せ。運んでやるから」
うっすらと瞼が開き、俺にしがみついた友紀、枕が友紀の腕から離れ、ベッドの下にトスンと落ちた。
ベッドに横たえると、友紀はまた静かに眠ってしまった。
その日の夕刻、俺は親父と海里さんに連れられ佐々木の部屋にいた。
此処に来る前に、親父からはどちらかでも冷静さを欠いた場合は即、引き離すからな。本当は駄目なんだが、友紀の事もあるから、特別だ。と言われていた。俺は、親父の後ろで自分の番が来るのを待つ。事情聴取の様な質問が繰り広げられ、初めての親父の外の顔に
〔流石だ、的確な質問に有無を言わせない緊張感、声を荒げるでもないのに、聞いてるだけの俺でもドキドキと鼓動が早くなる〕
親父の視線を受けながらビクビクとそれでも辿々しく話す佐々木が哀れに思えてきた。
そう思いながらもやはり佐々木が話す事柄に腹が立ち、友紀の見た目だけに囚われ勝手に思い込み友紀を責めた佐々木を俺は許せない。
親父が椅子から立ち俺の肩をポンと叩いた事で、俺は固く握っていた手をそっと開き、大きく息を吐き出した。
「外で待ってる」
短い言葉にお前を信じてると言われた気がして、俺は深く頷いた。
背中にドアが静かに閉まる音がして、俺が近づくと佐々木はビクッと肩を躍らせた。
「お前に聞きたいことがある」
「何を聞きたいんだ、もう全部話した」
俺の視線に怯える様に震えた声が掠れている。
「友紀に何を言った?」
「何?」
「あの時、お前は友紀に何を叫んでた?」
「俺は、ただ助けて欲しかっただけなのに……御坂は見捨てたんだ……あいつには見捨てられる、切り捨てられる者の気持ちなんてわからない、だから簡単に捨てるんだよ。誰からも愛され、チヤホヤされ、天使の顔で俺たちを闇に落としたのに、何故だ!何故、あいつばかり!」
小さい声で話していた佐々木が急に声を荒げ、怒りをぶつけてきた。だが、俺には、本当の友紀を知らない奴が好き勝手に思い込んだ考えであんなにも友紀を苦しめている事に悲しくなる。
「佐々木、お前は友紀の何を知っているというんだ?何も知らないで、お前が勝手に思い込んでるだけだろ?」
「御坂の何を知らないって?御坂は…あいつはいつも誰かに守られ、笑ってるじゃないか!親に見捨てられ、視線も合わせてもらえない気持ちなんてわかりっこないんだ!悪魔なんだよ!あいつは!」
俺は、殴りたくなる手を握りしめる。
「友紀が捨てられる意味がわからないと言うのか?友紀の何を知っていると言うんだ?何も知らないくせに、自分の弱さを友紀の所為にするな!」
「うるさい!お前もあいつに惑わされてるだけだ。仁田は御坂を天使だって虚ろに微笑むんだぜ、俺には真っ黒の翼を持つ天使に見えるけどな」
悔しそうに唇を噛む佐々木が、友紀に執着する仁田への嫉妬を感じ、哀れに思うが、それでも友紀を傷付けることは許そうとは思わない。
「俺と友紀、血の繋がりが無いのは知ってるか?」
俺が椅子に腰を降ろし、唐突な質問に馬鹿にした様に顔を歪める佐々木に、俺は友紀に向けた一方的な嫉妬が馬鹿馬鹿しいものだと気付く事を願い、少しだけ友紀の昔を話そうと思った。
「友紀は9歳の時に俺の親父が保護した。家に一人外に出る事も許されないまま放置され、瀕死の状態だった。お前は友紀が見捨てられた事が無いからと言うが、母親からも母親の連れからも始終暴力を受け、早く死んでくれと言われ続ける事は、お前の思いより軽いものなのか?」
俺の言葉に目を見開き、微かな声は「嘘だ」と繰り返すのみで意味をなしてない。
「友紀の事を黒い天使と言ったよな、それは違うな、黒だとするなら俺だろうな。今はまだ何も出来ない子供だが、少しづつ力をつけ、友紀を俺は護る。それが、どんな汚い手だとしても、友紀に気取られる事なく笑みを浮かべするだろうよ。悪魔か天使かどうかは知らないがな」
黒い翼が自分の背にあったらと想像したら少し笑えた。
「御坂の親はどうしてんだ?」
掠れた声が何故俺と住んでいるのか?と親はどうしたんだと怯えた視線が俺に向けられる。
「友紀の母親を見つけ、やっと退院した友紀を見て、言った言葉が、死ななかったのか、しぶとい。もう、自分はいらないからあげるだと。お前はそんな事言われたらどうだ?」
「そんな……嘘だ……俺は御坂に酷い事を……俺は…俺は…御坂の首を…なのにあいつは笑っていたから、馬鹿にしてるって…あいつの手が俺の頬の涙を拭おうと手を伸ばすから…俺は…」
自分の手を眺め泣き続ける佐々木に俺はもう言う事は無いと背を向けた。
「御坂に会わせてくれ、頼む」
謝りたい、お願いだと布団に頭を押し付け土下座をする佐々木に俺は冷たい声で無理だと言い部屋を出た。
もう、佐々木と話す事は無い。早く友紀に会いたいと俺の全てが飢えたように友紀を欲する。
廊下の壁に凭れ、部屋から出てきた俺の落ち着いた表情に、少し微笑み俺の背中を押した。
早く友紀の側にと……。

僕の首に絡む蛇がじわりじわりと喉を締め付け苦しさに涙が頬を伝う。
「お前などいなくなれ」
「悪魔!禍の種を蒔きに来たのか?」
「お前を愛する者などいない、消えろ」
助けてと叫びそうになる声を、拒絶の声が許さないと遮る。僕はまた生きたいと悪あがきをして誰かを不幸にしてしまったのか、今度こそ僕は必要とされてると思えるような気がしたのに、やっぱりそれは幻、錯覚だったんだなぁ。自分の愚かしさに笑ってしまいそうだ。
そんな思考を飲み込むように首に絡まる蛇は容赦なく締め付け、牙は喉を深く切り裂く。僕の悲鳴は喉の奥で声になる事なく呻きのみを残し消えていく。
もう、おしまいにしてほしい。もう僕を助けないで。このまま眠らせて欲しいと願いながらも一縷の光を求めてしまう愚かな……。
闇に堕ちていく体がフワリと暖かい腕に抱きとめられ、僕はまたその温もりに安堵し縋ってしまう。僕が唯一欲しいと願う温もりに心も体も諍うなんて出来るはずがない。
いつの間にか僕の首に絡んでいた蛇は消え失せ、苦しさから解放され、忙しなく呼吸を繰り返し体に酸素を満たしていく。
充分に満たされた体は重い瞼を開き、クリーム色の天井を瞳に映した。
〔あぁ、僕は死ねなかった。また、罪を犯してしまうかもしれないのに……〕