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白と黒の天使 Part 3

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だが、俺はほんとに友紀を守れているんだろうか?といつも自分の不甲斐なさに苛ついてしまう。
比較的空いた電車の雰囲気が昔を思い出させてしまったのだろうか、小学生だった俺が
一生をかけて守りたいと思う相手を見つけた、そして、今俺は大学生、見た目は大人に見えるが、実際は張りぼて。本物の大人の力を借りなければ何もできないのが現実。
トンネルに入った電車の窓には、大人と子供の両方をもつ中途半端な存在の自分の顔が情けない苦笑いを浮かべていた。

駅を出た俺は、家の近くの公園の横を通り過ぎようとして、立ち止まり時刻を確認した。
(この時間だと友紀は公園にいる可能性大だな。いつものベンチだけ覗いていくかな)
友紀は、仕事の休みの日にはよく公園のベンチに腰を下ろしぼんやりとしていることが多い。自然の風や音を聞き、子供たちの遊ぶ声や親たちの声など、聞いてるだけで心が穏やかになると言っていた。
いつものベンチには、落ち主の帰りを待つ荷物だけが寂しく置き去りにされていた。
(友紀?・・・・)
あたりを見渡しても、少し離れた自販機の前にも友紀の姿は見つけることができない。
(どこに行ったんだ?)
俺は、友紀の鞄を持ちなんとなくベンチの後ろに続く遊歩道の方に足を向けた。
微かに男の叫ぶような声が聞こえたような気がし、俺は奥に走った。
大きな木の陰に馬乗りになり首を絞め叫ぶ男を見つけ、その場から引きはがし殴りつけていた。
地面に横たわる友紀の姿を抱きしめ、必死で呼びかけた。俺の声に微かに動いた唇は
「もう、助けないで」とつぶやいた。

腕の中の友紀は助けてではなく助けないでと零したが、俺は助ける。それが友紀の望まぬことだとしても俺の我儘だとしても。
友紀の鼓動が聞こえることを確認した俺は、父に連絡、救急車の手配をした。腕の中の友紀が段々と冷たくなっているような気がして必死で抱きしめ温める。俺たちの後ろで呆けたように見つめる男。俺は振り向かない、今は。振り向けば俺は自分が抑えられないだろうから。

佐々木は父たちに連れられ、俺と友紀は救急車に。
ベットに眠る友紀、穏やかな呼吸に俺は安堵するが、その首にくっきりと残る痣に子供の頃の友紀に重なる。何故、友紀だけが何度もこんな仕打ちを受けなければいけないんだ。少しずつでも友紀の中の記憶が薄れ始めていたと思うのに、それを忘れるなと繰り返されるなど、俺には耐えられない。

あの時は、佐々木にも友紀と同じ目にと、怒りが抑えられなかったが、冷静にあいつの話を聞かないといけないと思う。あいつが友紀に何を言ったのかを。
(助けるなだと、ふざけるな!)
俺は誰に向けることのできない言葉を飲み込む。

ベットの横で椅子に凭れ天井を眺める。小さかった友紀はこの天井を何度も眺めていたんだよな。
殺風景なクリーム色の天井、こんな静かな空間で小さな瞳は何を考え何を求め、生きようとしていたんだろうか・・・必死で生きようと前を向いて道を切り開いてきたはずなのに・・・何故・・・諦めようとするんだ・・・・。
誰か助けてくれ・・・俺だけでは友紀の心を満たせないのだろうか・・・友紀がいないと俺の世界はカラカラに乾き、生きる者のいない砂漠になってしまう。
怖いんだ!そんな世界で生きるなんて考えが・・・俺には無理なんだ・・・怖くて怖くて・・・。

「愁、大丈夫か?」
ぼんやりと天井を眺める俺の横に周が立っていた。
「周、俺は間違ってるのか?友紀の望むことをしてやりたいのに、今度の願いは無理なんだよ。どうすればいいんだ・・・」

俺の頭を抱えるように抱きしめる周の腰にしがみつく様に泣いていた。髪をすく優しい感触が俺の心を少しずつ落ち着かせていく。
「愁、何があったんだ?少し話せるようになったか?」
俺は、すまないと周から離れ深く息を吐き出す。長い付き合いの周だからこそ甘えてしまう。
「友紀がもう助けないでくれって、何故なんだ・・・幸せだと感じた時間は幻だったのか?一緒に進んでいこうとしたのは、俺の独りよがりだったのか?」
何もかもがまやかしの中の世界だったのか・・・そんなこと俺は信じない・・・信じたくない・・・友紀が幸せだと思っていたと俺は、俺はそのことを信じる。

「愁、お前らしくないな。友紀の見せる表情が作られたものだったか?偽物に見えたか?そんなこと誰よりも友紀を好きなお前が解らないはずないだろ?バカなこと考えるな」
「すまん、そうだな。たぶん佐々木が友紀に何かを言ったんだろな、昔の自分と重ねるようなことを。まだまだ友紀の中に巣くっているんだな、忌まわしい記憶が。だが俺は諦めちゃいけないな」
「いいさ、お前が弱音を見せるのは俺だけだって知ってるからな、俺が弱音を見せるのも愁、お前だけだ。俺には甘えろ」
「そうだな、少し前向きになれた、俺は何度でも幸せな記憶で上書きしてやるさ」
「そうだ、まだまだ先は長い。忌まわしい記憶が隙間から這い出さないぐらい幸せの記憶で塗りつぶしてしまえ」
お互い顔を見合わせに笑ってしまった。
ひとしきり笑い、落ち着きを取り戻した俺に安堵した表情を浮かべた周は「また明日な」と言い帰って行った。
俺は、友紀の隣に簡易ベットを用意してもらいその夜は友紀の隣でうつらうつらとまどろむぐらいの浅い睡眠を繰り返し、何度目かの意識の浮上に肩にかかる懐かしい重みに、フッと口元を綻ばしている。寂しくなるとよく友紀は俺の布団に入り俺の肩に頭を乗せ、くっついて寝ていた頃の温もりが傍にある安堵に離れていかないように抱え込み、俺は吸い込まれるように深い眠りの中に落ちて行った。

少しずつ眠りから浮上する俺の耳にパタパタと忙しなく歩く足音が届いてきた。腕の中にはまだ温もりが確かにあることを確かめ、深く息を吐き目を開けた。
ベットの周りで足音を立てていたのは、海里さんだった。
俺が控えめに伸びをするのに気づき、笑みを浮かべ「おはよう」と小さい声が聞こえた。
名残惜しいぬくもりをそっと腕から降ろし、俺はベットから這い出す。
「海里さんおはようございます。親父は?」
「先生に呼ばれて話をしてるよ。眠ってる二人を見て嬉しそうに溜息ついていたよ」
「海里さん、ちょっと話いいですか?」
「いいよ、廊下に出ようか」
俺たちは、病室の外、ドアの傍の壁に凭れ座り込んだ。
「何?」
「佐々木の事教えてください。あいつは今どこに?」
「彼は、この病院にいるよ。会いたいよね?」
「そうですね、会って話ができるのならば、友紀に何を言ったのか聞いておきたいです」
「聞いてどうするの?」
「友紀がもう助けないでと言った意味を知りたいと。佐々木が言ったことで友紀がそう感じたのなら俺はそれを否定し続ける必要があると思います」
「今日は、どうかな?後で様子を見て、彼が落ち着いているようなら先生に聞いてみてあげる。でも、愁君は冷静でいられる?」
俺は、海里さんの言葉に、微かに口角を上げ
「大丈夫ですよ」と返した。
「その、憎たらしい笑い方、先輩にそっくり」
海里さんは嫌なものを見たと言わんばかりに顔を顰めた。