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白と黒の天使 Part 3

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連絡先を交換して、僕たちは毎日のようにラインで話をする。向こうの学校も決まり、友達ができたんだと写真を張り付けてくれた。輝くように笑顔が写っていて僕は泣きそうなほど嬉しかった。僕の弟のような秋乃、本来の彼はこんなにも太陽のように笑うんだと眩しく、綺麗だ。

季節が移り変わり、肌寒くなり始めた頃、僕は一人で公園にいた。冷たい風は寒いけど心地よく、枯葉のかさかさと奏でる音は、好きだった。
孤児院最後の秋、小さい子たちと焚火をして焼き芋を食べた事をふと思い出していた。愁がいないのは寂しかったけど、小さい子たちと遊ぶのは楽しかった。
僕は、穏やかな幸せを手にしてるんだと思う傍ら、母と暮らしていた時の、寂しさ、苦しさは、体に与えられる痛みなど比べられないほど僕を闇に落としていた頃を思い出す。時々母の血走った怒りの視線が僕を探しているようで震える時がある。
「あの時、お前の息の根を止められなかったのが悔しい、何故まだ生きてるのよ」
そう叫ぶ母の声が聞こえてくるようで。
僕も、もう少し大人にならないといけないと思うのに、僕の中に居座る悪夢は僕を離さない。
愛されてると思う幸せの中にいると思うのに、『お前は愛されてはいけない存在なんだと』闇の声が忘れるなと囁く。
「御坂、久しぶりだな」
ぼんやりとベンチに座る僕の側に佐々木が立っていた。痩せ生気のない瞳で僕を見下ろす。
「佐々木・・・君・・・」
「毎日楽しいだろ?幸せか?」
佐々木は何が言いたいんだろう?僕は、言葉を発することなく佐々木を見つめていた。
「なぁ、少し俺と散歩しないか?」
ほんのりと微笑んだと思うが、僕はゾクッと背筋に寒いものを感じた。
「佐々木君もここに座ったら?ここで話そうよ」
ここなら家族連れが見えるし、怖くない。何が怖いのか解らないけど着いて行ってはダメだって警報が聞こえる。
「なんだよ、そんなに怖がるなよ。何もしないさ、歩きながら話をしたいだけだ。二人だけでな」
「・・・・・・・」
何も言わない僕の腕に手をかけ無理やり立たせた佐々木は公園の奥に向かっていた。そこは、散歩道にはなっているが、あまり人がいない。
「佐々木君、離して!」
腕をつかむ佐々木の手首に僕の手がかかる前に、佐々木は腕を離した。
「あの後、俺たちがどうなったか知ってるか?仁田の事、何故助けてくれなかったんだ?俺は頼んだよな、助けてくれって!何故見捨てたんだ!」
僕は、佐々木が急に声を荒げて僕の肩に手をかけたからびっくりして後ずさろうとして、足元の小さな段差にバランスを崩した。
後ろ向きに倒れたみたいで背中と後頭部に激しい痛みを感じた。僕の腹の上に佐々木が馬乗りになっている。その瞳からは涙がとめどなく流れていた。
「お前さえ現れなかったら仁田はあそこまで狂わなかったんだ。お前さえいなけりゃ・・・・」
僕の首にかかる手を僕は避けることも出来ずに、佐々木の口から吐き出される苦しみに動けない。
「秋乃なんかもうどうでも良かったんだ、仁田はお前がほしいって譫言の様に言っていた。わかるか?お前の存在自体が悪なんだよ。真っ白な穢れの知らない天使の姿で仁田を狂わせたんだ!」
叫ぶ佐々木の声は震え、僕の喉にかかる親指に体重をかける様に力が入っていく。苦しい、僕は何度この苦しみを味わうのだろうか?佐々木も母と同じ何故そんなに悲しい苦しい顔なんだろう。泣かないでよ、僕は佐々木の頬を流れる涙に触れる。
「何故なんだ!仁田も俺も親が望む様に必死でやってきて、それでも足らないと責め、問題を起こした仁田を目の前から消えろって病院に押し込むなんて、仁田を追い詰めたのはあいつら親なのに!何故だ!親に消えろなんて、お前にわかる筈ない!お前が狂わしたんだ!どこに隠してんだ!闇の黒い翼を!その白い翼の陰に隠してるのかよぉ~」
もう、佐々木の声は意味のなさない悲鳴の様に聞こえる。僕は黒い翼を持つ悪魔なんだろうか?だから、母は何度も僕の息を止めようとしたんだろうか?生きる価値のない、生きていてはいけない存在が僕……薄れていく意識の中、生きている事への罪悪感が僕を支配していく。
暗闇に吸い込まれる寸前に聞いた声は、幼かった僕を生かしてくれた天使の声に似ていた気がする。
でも、僕はもう助けないでと囁いていた。



昼からの講義が急遽休講になり、大学を出た俺は、電車の窓を流れる見慣れた風景をぼんやりと眺め、ついこの間まで親父たちと友紀の友達の秋乃を助けるため動いていたことを思い出す。まさかあんな結末を迎えるとは誰も思っていなかっただけに、後味の悪い終わり方だったと思う。意識を飛ばした友紀が目覚めるのかそれも不安だった。でも、目覚めた友紀はすぐには思い出すことができず、思い出してからの精神の不安定さに目が離せなかったが、そんな友紀を秋乃は優しく声をかけて、笑ってくれた。強い子だと俺は思った。
友紀は強くなろうと頑張ってはいるが、幼いころに植え付けられたものはそうそう簡単には消えてくれはしない。幼かった俺は、自分とはかけ離れた生活を送っていた友紀に、ただの興味本位で思考を巡らしたこともあった。意識が戻ってから見舞いに行くように言われていたのに俺は好奇心という愚かな思いで病院に行った。ベットに横たわる小さな体は衰弱し生と死の間を行き来しているのが子供の俺でもわかるほど微かな今にも消えそうな呼吸を繰り返していた。学校の帰り父には内緒でこっそり俺は何度も病室に足を向けていた。その頃の俺自身、何故そんなにまで気になるのか解っていなかったが、只々会いたかった。少しずつ呼吸が確かなものになっていくのが嬉しかった。友紀を見つけた時に一緒にい た幼馴染の周に、「天使に会いに行く」と言って呆れられた事があった。でも、俺にはほんとに天使に見えたのだから仕方ない。今の俺はその天使に叶わぬ恋をしているけど。平安時代の物語に出てくる、毎夜毎夜恋人のところに通う公達のように俺は、病室に行っては、ベットの横に立ち友紀の寝顔を眺めていた。そんなことを繰り返していたある日、病室から看護師が話す声が漏れ聞こえてきた。
「この子の着替えお願いしていいかしら?」
「構わないけど、どうしたの?」
「可哀そうで、手が震えて涙が零れそうになるのよ。あんなに酷いの見たことないわ」
鼻をすするような音に混じり、体のあちこちに殴られぶつけた痣やら火傷の跡、左手の薬指は骨が折れたまま放置され、曲がったまま固まってしまっているとか。肋骨も何度も骨にヒビが入ったものが治りかけていたり、首にも痣が、きっと首を絞められた跡じゃないかと。耳に入ってきた言葉が怖かった俺は、気づくと自分の部屋に呆然と立っていた。
あんなに毎日通っていた病院に行かなくなった俺を、周は心配そうに眺めていた。
「愁、今日も天使に会いにいかないのか?何があった?」
小学生の俺には一人で抱え込むには辛すぎて、周にこの辛さを半分背負わせてしまった。
それが、今となっては良かったのか悪かったのかは解らないが、周は聞いて良かったと俺にも半分背負わせてくれて嬉しかったと言ってくれるから、あの時二人で友紀を守ると誓ったことは後悔していない。