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白と黒の天使 Part 3

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佐々木だって、こんな僕にまで助けを求める程追い詰められていたのに、僕なんかに何が出来るって思ったんだろう。 僕にはやっぱり何もない」
抱き締めた愁の溜息が僕の頭の上で聞こえる、愁も僕のこと呆れている。何も出来ない駄目な子と思って溜息を零すんだろうな。
「友紀、俺の前で僕なんかって言ってくれるな。友紀は頑張っているし、俺はちゃんとそんな友紀を見ている。だから、自分の事を卑下する様な言葉は、それを認めてる俺を侮辱しているぞ」
「ごめん。でも、僕は自分に自信が持てない。母さんが僕をいらない、消えて無くなれって言いながら首にかけた手に力を入れた時、消えて無くなる事が出来れば、みんなが幸せになると思ったんだ。でも、僕はまだ此処にいる、消えてない。僕に関わると不幸になる、僕は禍を撒き散らしているようだよ」
僕は闇の中、迷い子の様に当てもなく彷徨っている感覚がする。
「友紀、俺も親父もお前を愛してる。俺は、きっとお前無しでは生きられない程、愛している。俺の想いを否定しないでくれ。禍など大なり小なり誰にだって降りかかるもんだ。友紀のせいなんかじゃない。そんな風に考えるな、俺は幼いお前を見つけられて、消えかけた命の灯火が消えないでくれた事に感謝している」
そう思う俺の気持ちを疑わないでくれと僕を見る愁の潤んだ瞳に、愁の気持ちが嬉しくて涙ぐむ僕が映っている。
「ごめんなさい。弱い僕でごめんなさい」
「友紀だけが弱いわけじゃないさ、俺も弱いよ。だから、一緒に支え合い生きていくんだろ。俺は、ずっと側にいる、愛してるから。こんな俺の気持ちが重いと思ったら、俺から離れろ。俺からは離れるなんて出来ないからな」
僕だって離れるなんて出来ない。叶うならずっと一緒がいい。それを言葉に出してもいいの?一緒にいてと言ってもいいの?愛してると誰よりもと……。
「僕も……」
同じ気持ちだと言いたいのにまだ怖くて言えない。だから、抱きつき愁の胸に顔を埋め泣くことしかできない。

翌日には僕は、普段と変わりなく学園に行った。始終ボンヤリとしていた僕は端から見ると無表情に見えていたのかもしれない。
週末、秋乃が僕に会いたいと父から聞き、愁と二人父に連れられ病院に行った。
病室には僕だけが通され、秋乃は優しい笑顔で僕を迎えてくれ、僕は感情のまま秋乃に抱き着き泣いてしまった。
「先輩、泣かないで。僕は大丈夫だから」
膝立ちで秋乃の腰に腕を回し、泣く僕の髪を優しく梳く秋乃の声は、落ち着いた大人びた声だった。
顔をあげた僕の頬に秋乃の手が涙を拭ってくれる。
「秋乃、ごめん。僕がしっかりしてないから秋乃を一人にしてしまった。秋乃にあんなことさせて僕は、どうしたらいいの?」
謝る事しかできない僕、情けなくて益々涙が止まらない。
「先輩は気にしなくていいんです。僕自身の為にしたことなんだから。僕はね、きっと待ってたんです。陰で佐々木たちを操ってる卑怯な男を。その男がいる限り僕は自由になれない気がしたから、表に出てくるのをずっと、先輩たちが動いてくれてそのチャンスが早くに訪れてだけ。僕は先輩たちを利用したんです。狡いんですよ、僕。自分では諦めたふりして動かなかったのに。これでやっと僕は自由になるんだ。だから、僕は全然後悔してないんです。」
内緒ですけどねと笑う柔らかい微笑みやまっすぐに僕を見る視線からは以前のようなおどおどとした怯えはなく、前に進もうとする強さがあった。
「先輩、今日はコンタクトしてないんですね」
僕は、慌てていて気づいていなかった。「ごめん」と俯いてしまった僕に「秋乃はなぜ謝るの?僕は先輩のその眼の色好きなのに、澄み切った青、すごく好き」と言って見せて、お願いなんて、くすくす笑う。
僕は恥ずかしくなって真っ赤な顔で秋乃を見つめた。
「僕の方が秋乃より年下のような感じがする。秋乃なんだか大人っぽくなって僕だけ子供みたいだ」
拗ねたように呟くと、ほんとだねとまた笑われた。
「秋乃は僕の目の色、嫌いだろ?」
「まさか、大好きなのに。僕があんなこと言ったから隠しちゃったもんね。ごめんなさい。嫌いなんかじゃなかった、あの頃から僕は先輩が好きだったの。でも、僕は自分の弱さに蓋をしてあいつらの言いなりになっていたから、先輩の澄んだ曇りのない瞳が堪らなく怖かった」
でも、今は先輩の瞳を見る勇気があるよと、見つめる秋乃は本当に穏やかで綺麗な笑みを浮かべる。
僕は何もしてあげられなかったけど、秋乃が前に進もうと思うきっかけはつくれたのかな、こんな形でだったけれども、良かったのかもしれないと秋乃の微笑みが僕に勇気をくれた。
「秋乃はこの後どうするの?」
「このまま、学園には戻れないから、祖父母がいる田舎に行こうと思っている。何もない所だけど自然の中で僕も成長してくるね」
そしていつかまた会ってほしいと呟く。
「もちろん、僕ももっと大人になって、秋乃より男らしくなっているから期待していて」
「えぇぇぇ、男らしくはヤダなぁ、先輩は綺麗でいてくださいね」
「男はやっぱり、かっこいいでしょ!秋乃はいつまでも可愛いが良いけどね」
お互いの言い分が可笑しくて声を出して大笑いしていた。
「随分楽しそうだな、そろそろ、友紀帰るぞ。秋乃、退院の日も来るから、一人でいなくなるなよ。お前も俺達の仲間なんだからな」
愁が秋乃の頭をポンポンと叩き、髪を撫ぜる。
「明日の午後は、周たちが顔を出すらしいから、午前中はゆっくり休んどけよ。あいつらが来たら嵐のような賑やかさだろうからな、体力勝負だ」
ほんとだよ!と僕が言うと病室にまた笑いが溢れる。明日もきっと笑いが病室を満たし、秋乃の心も満たしてくれると思う。
僕は、幸せな気分で病院を出た。でも、もう一人壊れかけてた人がいた事を忘れていた。病院から愁と笑いながら歩く姿を、建物の陰から暗い怒りと悲しみの瞳がじっと僕たちを見ていた。
「何故、お前たちだけが・・・」
呟きは僕たちに届くことなく周りの音にかき消されていった。

学園では秋乃達の話題は一切誰も口にしない。きっと、一部の人間にしか知らされていないのだと思う
警察まで介入した出来事なのにとは思わないではないが、噂話が飛び交い、尾ひれが付き、事実がねじ曲がるよりはいい様な気がする。
広海や愁からは、大まかな事は聞いたけど、誰もが傷つき心に闇を背負ったと思う。でも、それに飲まれないで前に進めたら良いのにと、僕は思うことしか出来ない。

ほんとに何もなかったように時間は過ぎていく。秋乃の退院の日、病院には祖父母が迎えに来ていた。両親の姿がないことに僕が視線を向けると母はもう亡くなっていて、父親と二人暮らしだったけど、殆ど顔を見ることなんてないから、気にしないでと秋乃は笑っていた、仕方がないのだと。
秋乃も僕と同じ親から愛されていないのか?何故?僕たちを生んだ親なのに・・・そんな思いがいつも僕を苛む。
秋乃は、祖父母は僕を愛してくれるから幸せだって笑う。だから僕もいっぱい幸せになってと手を繋いで駅までを歩いた。