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白と黒の天使 Part 3

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仁田?どこかで聞いたような・・・・・。そうだ咲良が言っていた男だ。
「佐々木君は仁田君と付き合ってるの?」
何気なく呟いた僕の前で予想外の反応を見せる佐々木。頬を赤くするどころか蒼ざめ震えてるような気がする。
「佐々木君・・・・大丈夫?」
「大丈夫だ、頼む、これ以上あいつを追い詰めないでくれ」
「追い詰めるって・・・広海達が動いてるからなの?」
益々顔色が悪くなって立っているのも辛くなったのか、壁に背を預け膝を抱えるように座り込んでしまった。
「大丈夫?保健室に行く?一緒にいこう」
僕も隣にしゃがみ腕に手をかけると、それまで俯いていた顔をあげた佐々木は、泣きそうな顔をしていた。
「俺は大丈夫だから、早く戸川の所に行って。仁田は壊れてるんだ、俺ではもう止められない。俺は、ここでお前を引き留める役目、すまん。あいつが教室にいなかったら三丁目の公園裏にある工場跡に行け。絶対にお前一人で行くな!もう俺は疲れたんだ」
佐々木は消え入るような声で独り言を呟き、俯いたまま動かなくなった。
僕は、秋乃の教室に走った。入口の近くにいた生徒に秋乃の所在を聞いたら、走って教室を出て行ったという。
廊下に出た僕は、携帯を取り出し愁を呼び出す。
「友紀?どうした?」
「兄さん、秋乃がいなくなった。三丁目の公園裏工場跡らしい、佐々木が仁田を助けてくれって、教えてくれた。僕行くから」
愁が一人で行くなと叫ぶ声が聞こえたけど僕は、携帯をポケットに突っ込み走った。

雑草が蔓延る中、赤茶けたトタンの壁は錆が酷く、腐食したネジが外れた部分はトタンが風に煽られユラユラとしている。
閉ざされた門には普段は頑丈な鎖が巻かれているんだろう、今は鍵が壊され地面に蛇のように放置されている。
佐々木も愁も一人で行くなと言った。仁田という男はそんなに危険な男なのだろうか?愁が来るのを待つか?
でも、少し外から様子を伺いながら愁を待つ方が、応援が来た時に早く動けるかもと建物に近づき、僕は壊れたトタンの隙間から中を覗こうとした。その時、中から秋乃の叫びに近い声が聞こえた。
「先輩は、御坂先輩は何処だ?先輩に何をしたぁぁぁ」
僕は自分の名前が飛び出した事に、秋乃が此処まで僕を餌に誘き出された事に動揺してしまった。
「御坂かぁ、さぁどうしたかなぁ?」
秋乃の叫びにも動じる事のない人を馬鹿にした声。
「先輩に何かしたら許さない!絶対に許さない!」
甲高い笑い声が建物の中に響いた。
「お前さ、自分の心配したら?今からたっぷり楽しませて貰おうって思ってるんだぜ、俺たちは。解ってる?まぁ、お前は逆らわないよな?逆らえばお前の大事な御坂が、どぅ」
男の声に秋乃の「やめろぉぉ」と叫ぶ声が重なった。
僕は此処にいるのに、何処か別の所に拉致されてるような口ぶりで秋乃を拘束しようとしている。僕が出て行けば、秋乃を拘束出来ないはず、僕は建物の入り口に向かった。
そっと、中を覗くと慌てた叫び声や複数の足音がバタバタと聞こえ、少しすると静かになった。
中に入ろうとした時、背後から足音がして「友紀、待て!」と愁の声が聞こえ僕は踏み止まった。
建物の中がまた賑やかに足音や叫び声、それは、裏から逃げ出そうとした連中が警官が目の前に現れ、建物に逃げ帰ったから、それを追いかけた警官の怒鳴り声、さっきとは違った騒がしさだった。
「愁、来い!海里、救急車だ!」
中から父の声がして僕は愁の後を追い建物の中に入った。
地面に倒れている人の側、秋乃はボンヤリと座り込んでいた。
「秋乃!」
駆け寄った秋乃の手も服も血に染まり真っ赤、その側に人が腹にナイフが刺さって倒れていた。
服を染め上げていく止まらない血の蒸せ返る様な匂い、放心した秋乃の姿、全てを僕は受け止めきれず、意識は闇に沈んでいった。

目が醒めると見慣れた天井が見えた。悪い夢を見ていたみたい。なんだか頭が痛いし、気分が悪い。
〔今、何時だろう……〕
窓の外は明るいみたいだし、また、僕は寝てしまったのかな。
重い体を起し、リビングに行くと愁が海里さんと何か話をしていた。
「兄さん、海里さん、おはよう。僕、また寝てた?」
欠伸を噛み殺しながら洗面所で顔を洗い、リビングに戻ると、二人は僕を心配そうに眺めてる。
「どうしたの?僕、そんなに長く寝てたの?」
「1日ぐらいだから、大したことない。それより、昨日の事覚えているか?」
僕は、昨日の事って言われても何かあったかな?
「いつもとそんなに変わらなかったと……」
思うと言おうとした時、くらっと眩暈がして座り込んでしまう。あれ?なんで僕、震えてるの?震える手にポタポタと滴が・・・何故泣いてるのかも解らないのに涙が止まらない。
「兄さん?」
震える手を握り締めてくれる愁を見上げると、泣きそうな表情の愁が目に映る。
「友紀、昨日お前は秋乃を追いかけて工場跡に行った事、思い出せるか?」
「秋乃・・・工場跡・・・・秋乃が血塗れだった・・・何故?」
少し記憶が戻り始めると一気に僕の頭に雪崩れ込んでくる。昨日の信じたくない光景が・・・。
「何?これ何?秋乃…は?兄さん、何で秋乃が…僕の所為だ…僕が直ぐに秋乃を迎えに行かなかったから…だから…秋乃は……」
僕をしっかりと抱きしめてくれる愁、秋乃を僕は抱き締めたかった。大丈夫だと僕を抱きしめてくれる愁のように。なのに僕は、秋乃を一人にしてしまった。
「秋乃は、どうなったの?倒れてた人は?」
「友紀、落ち着け。大丈夫だからな、秋乃も今は落ち着いてるし、刺されたやつも軽い刺し傷だ。親父がついてるから、大丈夫だ。自分を責めるな!いいな」
愁の強い声に頷くけど、何もできなかった自分が許せない。
「兄さん、佐々木が言っていた仁田って人は?」
「そいつが刺されたんだよ。小さいナイフだったから、傷は浅いよから、すぐ退院できるだろう。だが、精神的にかなり弱ってるからそっちの病院に行くだろうな」
「佐々木も言っていた、壊れてるって・・・だから秋乃にあんなことしたのか?」
「それは、本人にしか解らないさ、友紀が考えても答えなんて出ないし、はっきりとした答えなんて初めからないんじゃないか?」
人の感情や思いなんて自分でも制御なんてできないもんだろ。とだから気に病むなと肩を抱いてくれる。
父から電話が入り、海里さんも合流するため家を出て行った。
「もう少し横になって休んだほうがいい」
僕は頷き、自分の部屋、ベットまで来たけど只、ぼんやりと座っていた。

外の街灯の明かりが漏れ、部屋の白い扉が明かりを反射し、薄ぼんやりと揺れているように見える。
部屋の明かりをつけなきゃと思うのに、体が拒否している。

扉がそっと開き、愁が入ってきて、ベットに座る僕に溜息を零している。
僕の隣に座り、肩を抱いていてくれる愁。
「横にならなかったのか?」
「眠れない、僕なんかが助けられるって思ったのが間違いだったんだ」
少し、強くなったと自惚れていた自分、馬鹿だった。
「秋乃にあんな辛い選択をさせてしまった。