小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

白と黒の天使 Part 2

INDEX|6ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

「友紀、大丈夫?何も怖わない、待たせてごめんな。腹減ったか?飯に行こうな」
頭を撫でられる大きな優しい手の感触が愁の撫ぜ方と似ているような気がする、そして香りも。愁より少し低いハスキーな声、光一さんの声?何故僕は光一さんを怖いと思わないんだろう?不思議だった。優しい空気が僕の恐怖を和らげていく。恐る恐る顔を上げてみる。もちろん瞼は開けずに。
「涙で顔がぐしゃぐしゃやで、可愛い顔が台無しや」
柔らかい物で顔を拭われるが、閉じた瞼から涙が滲んでくる。
「勝美、何したんだ?」
光一の凄みのある声に僕は、手探りで腕を伸ばし光一の服を掴み、フルフルと首を振りその人は悪くないんだと訴えることしか出来ない。なんて僕は情けないんだろう。
「友紀?」
「ごめ…めんな…さい、ぼ…僕が悪く…て…」
しゃくりあげながらも言葉を必死で出すけど、子供のようだときっと呆れてる。
「友紀、なんで目を瞑ってるんや?俺の事見てみ」
駄目、無理だよ、僕の目は相手を不快にするから、駄目出来ない。激しく首を振り否定する。
「何でなんや?言うてみ」
「僕の、目は嫌われてるから、嫌な気分にするから、駄目、見ないで」
光一は、そうか、それならええもんやるって、僕の顔に自分のサングラスをかけてくれた。
「これで、こっちからは何も見えんで、友紀からは見えるやろ?目を開けてみ」
視界はかなり暗いけど、光一さんも、もう一人の男の人も見えた。
「ほんとに見えない?」
「あぁ、大丈夫」
光一の後ろで、ホッと吐息を溢す男の人に僕は、もう一度ごめなさいと謝った。
「勝美も一緒に飯に行ってもええか?」
「勝美さん…?」
光一さんの後ろで怖い顔を和ませ、小学生のように俺ですと手を挙げている姿に、プッと吹き出してしまった。

こじんまりとした、取り分けておしゃれなカフェって感じでなく、優しく包み込む様な柔らかい印象のお店の前に僕はいた。
「可愛いお店……」
ポロリと溢れた言葉に嬉しそうに光一さんは微笑んでくれる。

勝美さんの車でほんの30分程走った小高い丘の公園のすぐ側にその店は、ほんのりと街灯が灯すだけの静かな公園と対のように佇んでいた。
まるで絵画のように……。

店の奥の4人掛けのテーブル席、光一さんと勝美さんが僕の前に並んで座っている。
「光一さん、何で俺の横なんや?友紀君の横でええやないですか?」
「勝美は、俺が横やと気に入らんのか?」
「気に入らんとかそんなんやなくてですね…」
言葉に詰まって大きく溜息をつき、「もうええわ!」と不貞腐れている。気心の知れた仲のいい感じ、何でも言い合える相手なんだろうなぁと、僕は羨ましくなった。
「仲がいいんですね」
「冗談やない!」
二人の声が重なり、「ほら、息ぴったり」と囁くと、二人して嫌そうな顔をする。

楽しい、初めて会った人達なのに何故僕は笑っていられるのだろう?無意識に口元に微笑を浮かべている。
「友紀、楽しいか?下ばっかり見てたってあかんで、顔をあげて前を見んかったら自分が進むべき道が見えてこんで」

光一さんの言葉は、僕の心の中に抵抗なく沁みこんでくる。何故なんだろう?ずっと年上だからだろうか?

「腹減ったやろ?何でも好きなの頼めばええで、勝美の奢りやからな」
隣で勝美さんがえぇぇぇと言いながらも財布の中身をごそごそ確認している。
「ごめんなさい、僕、お金持ってなくて……」
どうしようと俯いてしまった僕に
「友紀ちゃん泣かした詫びやから」と気にせんでいいと笑う。最初の怖いと感じた印象がどんどん塗り替えられていく。黙ってると鋭い怖さがあるけど、笑うと顔を出す八重歯とか、目尻のシワとかが優しい表情に変わる。
「友紀、何食べるんや?」
「デザートでもいい?」
「そんなんでええんか?もっと腹に溜まるもん食べな大きなれんで」
遠慮しなくていいと勝美さんは目尻を下げメニューを見せ、これはどうやとか色々勧めてくれる。
そんな勝美さんに光一さんは、パシンと後頭部を平手で叩き、
「友紀は、お前の弟やないんやからそんなデレデレした顔するな!」
「何するんや?痛いなぁ、ええやないか、友紀ちゃんも徹と同じぐらいやし、可愛いんやから」
なぁって、僕に同意を求められても困ってしまう。
僕が困っていると、光一さんの視線が僕の後ろを見ながら、ニヤリと悪戯っ子の様な笑みを見せた。
「ほんまもんのにいちゃんがお出ましやで、偉い怖いにいちゃんや」
僕が訳が分からずエッと聞き直す前に、僕の隣に人が座った。
まさか、そんな筈無いと思いながらも首を向けると怖い顔の愁が僕では無く光一さんを見据えていた。

愁がいるってことはもしかしてと思っていると、後ろの席でこの緊張した場に不似合いな広海の明るいオーダーの声が飛び込んできた。

「俺、チョコパフェにする、周は何にするんだ?光一さん俺たちのも奢ってくれるんだよね?」

「広海、お前らは自分で払え!」

ガタンと勢いよく立ち上がった光一さんの声が響く。
愁がピクッと引きつる、ヤバイ、かなりヤバイ、広海、お願い場の空気読んでよぉぉぉ。

「周、痛いなぁ、何するんだよ!」
「うるさい!お前は口にチャックしとけ!」

きっと、周が広海の頭を叩いたんだろうと予測はできるが、怖くて振り返るなんて出来そうにない。それよりも、何で、広海まで光一さんのこと知っているんだ?

後ろではまだ周と広海の声がするが幾分かボリュームは下がってる。

俯く僕のテーブルの横に気配を感じ視線を少し上げると、そこには咲良が・・・・嘘でしょ!もう、僕、逃げ出したい・・・・。

「あの、初めまして、俺、咲良って言います。友紀の事ありがとうございました。愁さんと話が長くなるようなので、俺、珈琲頂いてもいいですか?」
感情があまり表情に出ない咲良の強面からは想像もつかない真面目なセリフに光一さんも勝美さんも噴出した。

「お前、咲良君?なかなかにかっこええなぁ、広海と並んだら映えるやろな、スタジオ来てみんか?」

「すみません、俺はあまり興味ないんで、遠慮させてもらいます」
深々と頭を下げその場を去ろうとした咲良に
「好きなの頼んでいいで、勝美の奢りやからな、広海は自分で払えよ」

光一さんの隣で小さく手を挙げた勝美さんに咲良は「ごちそうになります」と言って席に戻った。

この場のごちゃごちゃな雰囲気に僕は、もう倒れそうとため息をつきかけた横で、愁の大きなため息が聞こえた。

「光一さん、今日は連絡ありがとうございました」

「そんな怖い顔で言われても嬉しゅうないな、もっと、顔の筋肉緩めな」

えっ!光一さんが呼んだの?

戸惑う僕に視線を向けた愁の瞳が優しく揺れる。
「友紀、黙って居なくならないでくれ。何があったかは、お前が話したくなったら聞く、助けて欲しいと言えば助ける。自分で解決したいと思うなら側で見守る。だから、側にいてくれ、我儘を言っているのは自分でも解っているけど、許してくれ」

いつも意志の強い瞳で前を向いている愁が、ゆらゆらと不安に揺れる瞳で僕を見つめる。