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白と黒の天使 Part 2

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愁から離れないと、愁までもが嫌われる。きっと、あの少年は愁を慕っているのだろう、だから、僕みたいな情けないのが側にいるのが耐えられなかったんだろうな、彼に嫌な思いをさせてしまった。
彼に謝る事も出来ず、自分の事ばかり、なんて愚かなんだろう。
彼も僕のこの青い目が嫌なんだろうな、母も凄く嫌っていたよな。
幼かった僕に馬乗りしてハサミを振り上げた母の悲痛な叫びは、僕の心に刻み付けられ、毎夜僕の夢に現れる事もあった。
『お前のその目が憎い、その目で見るな、汚らわしいその目をこれで潰してしまえば、私は幸せになれるだろうよ。その目が私の幸せを奪っていくのよ、私にはその目のがある限りお前を愛さない、いらない、消えて』
あの時僅かに僕が逃げたからハサミは僕の頬を掠めただけ、でも、母壊れたみたいに泣き叫んでいた。
僕の目は周りを不幸にする、隠そう、どうやって、コンタクトだ、そうだよ普通の色の目になれば、もしかしたら、僕は少しだけ愁の側にいるのを許されるかもしれない。

自分に放たれた言葉が耳鳴りのようにリピートし続ける僕は、逃げるように一人帰宅してしまっていた。自分の見た目も行動も全てが周りを傷つけるなら、それは嫌だ、誰も傷つけたくない。どうすれば……消えてしまえと言ったけど、消える事は出来ない。僕が消えれば、父や兄に迷惑をかけるし、それにまだ僕は二人に嫌われたくないと思う気持ちがある。悲しくて胸が鷲掴みされた様に苦しく痛い。
自分の部屋のドアの前でへたり込んでいた僕の携帯が着信を知らせる。
『広海からだ』
画面を只見つめるだけで体は動かせず、焦点の合わ無いままゆらゆら揺れる天井を眺めていたが、携帯がもう既に動きを止め静かになっているのに気づき、
『広海達が来る、今は会いたくない』
制服のまま家を飛び出していた。
こんな事初めて、当てもなくフラフラと夜の繁華街を歩く。
「おい!こんな所で駄目やないか、何処行くつもりや?」
腕を掴まれ止められたが、見上げた顔は知らない人、『誰?僕に何か用事?何を言ってるの?』
「おい、聞こえてるんか?制服でこんな所にいたら補導されるで」
ぼんやりと見つめる僕に大きな溜息をつき、「こっちこい」と路地の奥まで連れて行かれた。
「ここで待ってろ」
そう言うと目の前のドアに入って行った。僕は、何をしているんだろう、飛び出してどうするつもりだった?自分に問いかけても答えなんて出てこない。携帯も財布もない、スボンのポケットに10円玉が2個。
俯いた目の前に見える黒の学生靴が大分と汚れてるなぁと何の関係もないことを思い眺めていた。
「ほら、制服の上着脱げ、これに着替えろ」
顔を上げるとさっきの男性がパーカーを持って立っていた。
「お前、大丈夫か?何、泣いてんだ?あぁ、邪魔くせぇ中に入れ」
腕を掴まれドアに引っ張り込まれ
「ボタン外すけど変な事する訳やなあからな!」
「変な事って何?」
ぼそりと疑問を口にすると
「知らんならかまへん、お前可愛いからこんな所ウロウロしてたら怖い事になるで」
「僕、可愛くないよ。ゴミだもん」
改めて声に出すと胸が苦しく目が熱くなる。ポロポロ頬を流れるのは、悲しいから?何だかもう疲れちゃったなぁ。
目の前が一瞬、暗くなって明るくなった。パーカーを被せられたのだと気づいたが、立ったまま動こうとしない僕に
「あのな、袖に腕ぐらい自分で通さんかいな、世話のかかるやっちゃな。」
言われて、ごそごそと腕を通したが、手が出てこない。
「手が出てこないよ」
ぶらんぶらんと手を振る僕の様子に吹き出した男は僕の腕を掴み、袖を折ってくれる。
「思った以上にでかいな」
お子様やなと頬にまだ残る涙を拭ってくれる。
「お前もゴミの扱いされたんか?親にか?俺と同じやな、そやけどな、そんなんで落ち込んでてもしゃーないやろ、自分の進む方向は自分で探さなあかんで。周りに流されとったら自分が何がしたいか見失ってしまうからな」
僕の目を真っ直ぐ見て話す男は、見上げるほど背が高く、頭を撫ぜる手は大きく、優しく響く低音の声は耳に心地良かった。
「僕のしたい事?」
「そうやで」
「見つかるだろうか?」
「見つかるさ。お前っていつまでも言うのなんやな、名前なんて言うんや?俺は光一や」
「僕、友紀」
「友紀か、名前も可愛いな」
あんまり可愛いと言われるの好きじゃない僕は少し顔を歪めたみたいで
「よしよし、少し表情出てきたな」
安心したように微笑む光一は、よく見ると中々の男前だった。
「お兄さんもかっこいいね」
マジマジと見つめて溢れた言葉に、僅かに目線を逸らした光一の耳は赤くなっていた。
「アッ……」
照れてると声に出してしまいそうだった口を手で塞いだ。
「どうした?」
首を横に振って「何でもない」と呟く。
「まぁええわ、少し待っとき、飯でも一緒に行こうな」
僕は、もう少しあの大きな手で頭を撫ぜて欲しくて、うん、と頷いていた。

光一さんを待っている間に何人かの人が僕を不思議そうに見て通り過ぎて行った。
「おい、お前、そこで何やってんだ?誰か待っとんのか?」
俯いていた顔を上げると凄く怖い顔があり、ヒッと喉の奥で声がなったきり、口をパクパクするだけで声が出ない。
「これ、光一さんのやな?」
僕の着ているパーカーをクイっと引っ張り顔を覗き込んでくるから、『殴られる』と体は教え込まれた動きを躊躇いもなく無意識に動く。その場に座り込み膝を抱え頭や顔をを庇う。『怖い、怖い、助けて、許して』僕の頭の中はその言葉でパンクしそうだ。

当然襲ってくると思っていた痛みは、いつまで経っても襲ってこず、頭の上にトンと乗せられた物にビクッと体を震わすと、優しく撫ぜられてる様に思う。
頭の上から降ってくる声は、とても優しい声で、もしかしたら殴られることはないのかもと、少し震えが治まってきていた。
「寒ないか?光一さんの側で待っとったら、控え室やし、連れて行ったるで?」
「ううん、ここで待っているように言われたから」
ありがとうと笑顔で見上げた僕の視線と男の視線がぶつかった。男は、ハッとしたように視線を逸らした。
この人も僕の瞳が嫌いなんだ、不愉快な思いをさせてしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい…ごめ…んなさい、ご…めん…な……」
膝に顔をうずめ瞼を固く閉じた。こんな目はいらない。誰も見ないで……何度も謝る声は、途切れ涙と共にしゃくりあげが止まらない。
大きな手は急に泣き出した僕の頭で必死に慰めようとしているが、あまり効果を発揮されていなかった。
「勝美、お前何やってんだ?」
鋭い声がその場の空気を震わせ、暖かい手が僕を包み込んだ。
誰?微かに漂う香り?愁なの?なんでここにいるの?愁…ごめんなさい…体が縋るように傾き体を預けようとした。でも、なんか違う?少し違う?愁と違う…愁じゃない…駄目、触らないで…僕の体は恐怖にビクッと震えが加速する。ほんの数秒前には安心するように腕に重みを感じた筈なのに、重みは遠のき拒否するように震えだすとは、光一は苦笑いを浮かべる。