子供でもいいかもしれない
反発
約束の5時には時間がありすぎる。だが、行く当てもなくぶらぶらと町を歩くのも、酷使した行為の後では体が重く辛いものがある。
「シャドウ」の近くまで来たものの、時計を覗けばまだ3時過ぎを示してる。いい加減座りたい気分で辺りを見渡し、一軒のオープンカフェが目にとまる。食事をしていないが、食べる気にもなれず、コーヒーをと思い日陰の席に着く。
優しい面差しの男性が、オーダーを取りに俺の側に立つ。
「いらっしゃいませ!何になさいますか?」
「ホット」
「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」
しかし、刺激物はやめておこうと思い、去りかけたウエイターを呼びとめ
「あっ!悪いけど、ホットミルクに変更」
「ホットミルクですね。かしこまりました」
軽く頭を下げ、去っていった。
夜の風景とはまるで違う穏やかな、されど冷たく冷めた風景。
媚を売る女や男はいない代わりに、先を急ぐ疲れた表情の人の群れ。
ボーと眺める俺の耳に「カタン」と音が入ってくる。テーブルには湯気がゆらゆらと揺れるミルクの入ったカップ。
俺の物思いを邪魔しない様にか頭を下げただけで立ち去っていくウエイター。
温かいミルクがほんの少し俺の気分を慰めてくれる。雑踏の賑やかさも別の次元での事のように遠くに聞こえるようだ。
いつの間にか椅子の背に肘をかけその中に顔をうずめるように眠っていた。
近くで聞こえるかすかな陶器の当たる音で目が覚める。顔を上げた向かいの席には、からかうような瞳の木島がいた。
「学校をサボってこんなところで昼寝か?」
無視をして冷たくなったミルクを飲み干す。
「することないんだったら、店に来るか?ん?」
「5時でいいんだろう?時間外手当てでも出るのか?」
俺は、テーブルに身体を乗り出し挑発するように相手を見る
「手当てね~~~いいぜ!」
というと、俺の顎を捕らえキスを・・・・。
「手当と言うより、俺のほうがご馳走様かな?」
「!!!!!!」
勢いで椅子が倒れるのも無視し、俺は男の顔めがけて右の拳を出していた。
だが、確実に入ったと思った拳は、男の手のひらに吸い込まれていた。
腕を引こうとしても、男に握られた拳はビクとも動かない。
「みんな見てるぜ!!行くか?」
「行く・・・・」
悔しくて喉から絞り出すように掠れた声に面白そうに口元を緩め、握られた手の力が緩んだと思ったときには、さっさと支払いを済ませ俺を置いて店の外に向かっていた。
ただ唖然と見送っていた俺だけが周囲からの視線に晒される事になった。俺は、自分の気持ちとは反対に慌てて彼を追うしかなかった。
作品名:子供でもいいかもしれない 作家名:友紀