子供でもいいかもしれない
恋愛それとも束縛
次の日俺は、学校に行く気にもなれず、家の片づけやら洗濯をしていた。
洗濯物を乾燥機に放り込み、リビングに戻るとテーブルの上でマナーモードにしたままだった携帯が賑やかに踊っていた。
電話の相手は、夜の街で知り合ったジムで働く、高科邦明だった。
「ヒロか?」
「ああ・・・」
「今日もサボりか?」
「あなたには関係ない!」
「そうだな・・・。今日、俺、休みなんだが出てこないか?」
「解った・・・家に行けばいいか?」
「ああ!外で食事でもどうだ?もうすぐ昼だし」
「すぐ出るよ」
「待ってるよ」
俺は、何も言わず電話を切り、乾燥機を止め、財布と携帯をジーンズのポケットに突っ込み家をでた。
高科の家は、俺のマンションから自転車で10分ぐらいと割と近いところにあった。一戸建てのなかなか洒落た家だ。
ドアホンに、着いた事を告げると、中から足音がしてドアが開いた。
「いらっしゃい!上着を取ってくるから、先に車に乗っていてくれ」
と言って、俺にカギだけを渡し、部屋の奥に消えていった。
俺は、ガレージに止めてある車のカギを開け、助手席に座って横を見ると、高科はドアを開け乗り込んできた。
「パスタでも食べに行こうと思うんだが、それでいいか?」
「ああ・・・」
俺の短い返事に慣れっこの高科は、車を発進させ目的地に向かった。
車に乗ってる間も、話しかけるのは高科だけで、俺はそれに短く返事を返すだけだった。
連れて行かれた店は、昼時なのに席にすぐに通された。だからと言って空いてるわけでもなさそうだ。
お互いランチコースを頼み、無言のまま食事は終わっていた。食後のコーヒーが来てからは、ポツリポツリと高科が話しはじめたが、俺は、窓の外をボーと眺めていた。
しばらくして、高科のコーヒーを飲み干したのを確認して、話しかけた。
「高科さん、悪いんだが今日から俺、バイトが入ってるんだよ。この後、するんだったら・・・」
「ああ、そうだな、出ようか」
俺達は、無言のまま彼の家に向かった。
最近は、道で声をかけられついていくより、この高科に呼び出されることが多くなっていたかもしれない。
だからと言って、この男にしても俺だから抱くんじゃない。心なんて必要ない。ただ、自分と変わらない体格の俺を組み敷いて、自由にできる優越感を感じたいだけなんだ。俺は、それを利用するだけ、行き場のない気持ちを履き捨てるために。
玄関のドアを開け、俺を先に促し、カギを急いで閉めた高科は、待ちきれずに俺を押さえつけ、唇を深く求めてくる。
あまりの苦しさに肩を強めに押すと、高科はハッとしたように、腕の力を緩め、
「すまない」
と俯き加減に謝った。
俺には、高科が何を誤ったのか解らなかった。
服を脱がされ、肌に触れる手の感触に、俺は昂ぶって行く自分を感じた。
「ヒロ・・・」
高科は俺の顔を上向かせ、口づけた。腰に腕を回し背筋を撫で上げ、口づけにしなる筋肉を楽しむように。
いつもより早急な高科の求めに、俺は絶え間なく艶かしい吐息をついてしまい、益々高科を興奮させてしまったようだ。
二人して、今はただ、身体の中で荒れ狂う狂熱を追うことに夢中だ。
互いの呼吸がシンクロし、体温も鼓動も溶け合うような錯覚に襲われる。速くなる高科の動きに翻弄されるように、俺の身体は揺さぶられる。
何も考えず、ただ与えられる快楽だけを求め、貪りシーツの波に新たな波を作った時間も熱が静まってしまえば、気だるさと空しさだけが残る。そんな俺の耳に少しずつ覚醒するように部屋の奥から聞こえる水音が現実の世界に俺を引き戻す。
「おい、シャワー使うだろ?」
腰にタオルを巻き、濡れた髪をタオルで拭きながら、高科はベットに横たわる俺に話しかける。
「ああ」
短く返事を返したが動く気配のない俺に
「な~、俺の物になれよ。俺だけ見ることは出来ないのか?俺では、お前を・・・」
「やめてくれないか、中坊相手に何マジになってんだよ。冗談じゃないぜ。」
睨みあげた俺の視線にあたふたとしり込みする大人。腹立たしく舌打ちし、勢いよく身体を起こしバスルームに向かう。
服を着て部屋に戻ると、そこにはまだ、さっきのままの姿で煙草をくゆらせてる高科が俺に背を向けたまま
「どうしても駄目なのか?」と問う。
「マジで言ってんだったら、今日でバイバイだな。あんたの代わりならいくらでもいる。俺にはあんたの心なんていらないんだよ。」
じゃ~なバイバイと後ろ向きのまま手を振って部屋を出る。
俺を呼ぶ彼の声も、辛そうな表情も俺には必要なかった。
エレベーターの壁にもたれ、ため息が漏れる。自分が闇に沈んでいくのを止められない、心の悲鳴に耳を塞ぐ。
作品名:子供でもいいかもしれない 作家名:友紀