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子供でもいいかもしれない

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勝てない相手



木島が店のドアを押し開け中に入っていった一瞬、俺の耳に聞こえてきた音に聞き覚えがあった。ドアの前でボーとしてると
「おい!何やってんだ!早く入って来い!」
「命令するな!」
言い返した俺の言葉に鼻で笑い、顎で入るように促す木島が益々嫌いになった。嫌いだが畏怖も感じる。
やっぱりだ!!舌打ちして顔をしかめる俺に舞台の上からサックスを吹きながら合図を送ってくる龍也。何であいつがいるんだよ!あぁ~そうか~、忘れてたぜ。ここにつれてきたのが龍也の兄貴だって事を・・・。
まさか、俺がやってたこと龍也にばれた・・・?と思うと、俺の視線は木島を追いかけた。木島は俺の内心を読み取ったように、ニヤリと口の端を上げ
「何ぐずぐずしてんだ!見習いは早く店の掃除に取り掛かれ!今日は、ライブがある。ボーとしてる暇ないぞ!」
と、何も言ってないから早く仕事しろとせかす。
(くそっ!!偉そうに言いやがって!!!)
「掃除道具はどこにあるんだ!教えられてない事やれね~だろうが!」
「生意気だな!見習い。解らない事は聞け!!」
「だから聞いてるだろうが!」
「それが、この店の主人に聞く態度か?」
「へっ!何が主人だ!雇われ店主のくせに偉そうに言いやがって!」
「悪いな~、この店のオーナーは俺だ!お前のような口ばかりのガキと違って、金も肩書きも、お前に命令できるだけの権利もある。」
俺の側に近づきながら余裕の笑みを浮かべ言ってのける。そして、腰を屈め俺の耳元で
「ベットでお前を気持ちよく支配できるだけの経験とテク、そして力もあるぞ。試してみるか?」
俺は、ステージで俺たちをみてる龍也に木島の言葉に動揺した姿を見られたことに一瞬行動が遅れ、またしても振り上げた拳は空を切った。
いつの間にかカウンターに戻っていた木島に
「龍也、この見習いに掃除道具の場所教えてやってくれ」
「はい、ヒロ、こっち!」
龍也は、サックスを椅子の上に置き、奥のドアに俺を手招く。
龍也がドアの向こうに消えるのを待って、
「おじさんにはテクがあるだろうが、俺には体力があるからな!俺相手じゃ、腰立たなくなるぜ!」
カウンターの木島に顔を近づけ囁いた。そんな強気の俺の言葉に少し驚いた顔をしたが、目は獲物を狙う肉食獣の目だった。
俺は、その目に見つめられ、咄嗟に身を引いて龍也が消えたドアに飛び込んだ。ドアの向こうで木島の高笑いが聞こえた。
初めてどんなに努力しても、つっぱても勝てない相手というものを知った。

作品名:子供でもいいかもしれない 作家名:友紀