子供でもいいかもしれない
冷たい現実
机の上で携帯が鳴ってる。頭が痛い。思い身体を引きずる様に携帯に出る。
「ヒロ、大丈夫か?」
「・・・・・・」
「ヒロ、聞いてるか?」
「ああ・・・すまん。」
「ほんとに大丈夫なのか?担任には俺が話しておいた。明日はどうする?」
「・・・・・当分休むって言っておいてくれるか」
「それは、いいけど・・・ヒロ、昨日何があったんだ?」
「・・・・・」
「ヒロ・・・・」
「龍也・・・サンキュ。昼休み終わりだろ!切るぞ!じゃ~な」
携帯をべットに放り投げ、キッチンに。
料理なんかしたことない。冷凍庫には母の作り置き料理が入っていた。 今まで作ってくれた料理に感謝なんかしたことなかったよな。俺が食べてなくても、もう愚痴をこぼす母の声も、そんな母を慰めてる父の声も、俺をからかう妹の声も聞くこともできないんだ。ほんとに俺は一人になってしまったんだな。
一人になってみて解るなんとやら~って事だよな。でも今は、ボーとしてても何も変わらない、動き出さないと!!
着がえて本屋で求人雑誌を買い求め、子供達が賑やかに遊ぶ公園で俺は、紙面に目を走らせバイト先を探す。いくつか印をつけたところに行ってみたけど、どこでも同じ扱いを受ける。
現実は厳しい。俺が見た目は大人に見えるが、実際は中学生。誰もが顔をしかめ、首を横に振る。
気がつけばあたりはもう真っ暗!!着崩した格好の男や着飾って男達の腕にぶら下がり笑ってる女達。
いい年をしたサラリーマン風の男が、俺と変わらないぐらいの男の腰に腕を回し、俺の前を通り過ぎていく。
俺も男でもナンパするかな~・・・・やったことがなくてもできるかもな~・・・・
そんなことを過ぎゆく人を見ながら思う。出来もしないくせに・・・・
「君、一人。誰かと待ち合わせかな?」
そんな声が俺の思考を現実に引き戻した。
顔を上げた先にはGパンを履いた背の高い20代の男がいた。
その男は、自分を見てるだけで返事をしない俺に重ねて
「3万でどうかな?」
俺は、思考停止状態のまま
「5万なら」
と、返していた。
「解った。じゃ~行こうか」
何故、俺はあんな返事を返したんだろう。何故、俺はこの男について行くんだろう、出来もしないのにと思っていたではないか・・・。
もう、考えるのはよそう。疲れた。
ホテルにはいるまで、二人は何も話さなかった。話す必要もなかった。
ただ、金で買われた少年と、買った男。それだけの間柄だからだ。
「シャワーは?」
安っぽい部屋だった。
ただ、性交渉のみを行うだけの、部屋。
「どっちでもいいよ。あんたの好みは?シャワーを浴びてキレイな体が好み?」
もう、開き直ったというか、どうでもよかった。
「そのままの方が好みかな」
男はクスクス笑いながらそう言った。
「OK」
俺はそう答えると、キシッと安っぽい音を立てるベッドの上に腰掛けた。
それを見て、男もシャツを脱ぎベットに片膝を乗せ、俺を組み敷いてきた。
今宵一夜、全てを忘れてただ快楽のみを貪ろうと。
男も女も知らない俺には、全てが初めての感覚。
視線を窓に向ければほのかな明かりのもとガラスに映される、ベットの上で折り重なる2人。その一人が俺なんだと、不思議な気持ちで眺めていた。感情が伴わなくても、身体は簡単に欲望に従順だ。
そんな俺を眺め、男が満足そうに微笑む。まるで俺を支配したかのように、俺には感じられた。
男は、ぐったりとベットに沈む俺をそのままにシャワールームに消えていった。一人残された俺は、笑っていたかもしれない。男に抱かれるなんて、たいした事じゃない。簡単な事じゃないか。俺の心は壊れてない。俺は、何も変わっていない。
それからの俺は、真面目に昼は学校に、夜は男の身体を欲しがる男達を渡り歩く生活が当たり前のようになっていった。
少しずつ自分から感情というものが消えていってることに、気づきつつあるが無視を決め込んだ。その方が、傷つかなくていいから。現実から逃げていた俺。
作品名:子供でもいいかもしれない 作家名:友紀