白と黒の天使 Part 1
何を思ったのか周が咲良ににっこりと怖い笑顔で釘を刺している。
「周、いい加減にしろよ。咲良がびっくりするだろう」
周と話してる広海は、可愛く見えた。
「大丈夫ですよ、俺は弟一筋ですから。自分の事より好きなので。だからって友紀をそんな目で見てないですよ。友紀は友紀だし、俺の弟じゃないですから」
安心してくださいと、目尻を下げ笑う。
二人の兄は、了解と手を挙げやっと優しい笑顔に戻ってくれた。
昼休みが終わり、和やかに過ごした時間は短く感じる。
教室まで送って行くと言った俺たちを大丈夫と三人肩を並べて帰って行く。
「なぁ~、あいつ、咲良の事どう思う?」
「友紀に友達が出来るのは嬉しいが、複雑な気分だな」
「愁は友紀に好きだと言ったのか?」
「何度も言ってるが、家族としての好きだと思ってるみたいだな」
寂しく苦笑いする愁は、弟としての好きの振り幅は遠の昔に振り切ってしまっている。
「友紀は鈍感なのか?今日もあれだけの事されて、そんな風に思えるのは、天然記念物ものだな」
「仕方ないさ、愛される事に慣れてないからな。友紀は俺の事、兄としか思ってないのかな?」
寂しそうに笑う親友が、言い寄ってくる女達に全く興味を向けないのは、良しとしてもこんな自信のない表情をするのは堪らない気持ちになる。だからと言って横から茶々を入れて拗れたら、きっと愁は立ち直れないほど傷つくだろう。
広海は、何か聞いてないかなと帰ったら探りを入れてみるかと、手のかかる二人にため息を零す。
兄二人と別れた三人は、友紀を挟み並んで歩いていた。
「友紀、愁さんと苗字違うけど、俺と同じ?」
突然、咲良の言葉に動揺する。兄弟だと言っていても、血の繋がりのない他人。切ろうと思えば直ぐに切れてしまう細い糸、そんな危うい繋がり、咲良に何て言えば良いのか言葉が見つからない。
「咲良、その話は後な。時間がないから急ぐぞ」
広海が、僕の緊張を感じ取り話を終わらせる。
「わかった、すまない」
咲良は広海の鋭さを増した視線に触れてはいけない物に触れたのだと悟った。
会話のないまま教室につき、別れ際広海が咲良の腕を掴み、何かを囁いていたが、僕は咲良に何て言えば良いのか、ホントの事を言って軽蔑される、ゴミのように捨てられ、生きている事さえ罪悪なのだと、母の蔑む顔が咲良と重なり、その恐怖に視界に薄いカーテンをひくように遮断してしまっていて気付かずにいた。
ガタガタと椅子の動く音にいつの間にか授業が終わっているのに気づいた。何の授業をしていたかも覚えていない。
隣の席に恐々目をやるとそこには咲良の姿はなくほっとしたが、どこに行ったんだろうと気になり、教室を見渡したがいない。
キョロキョロとしている僕に
「友紀、教室移動だよ、行こう」
後ろの出口から咲良に呼ばれる。
咲良の何も変わらない様子にぼんやり見つめてしまっていた。
「友紀、急げ。ほら教科書、ノートは?」
僕はごめんを繰り返し咲良に追い立てられ教室を飛び出した。
最初の授業はどの科目も先生の自己紹介やら雑談で終わったらしい、僕はよく覚えていない、始終ぼんやりしていたみたい。
やっと授業が終わり、教室に残り部活の話しに花を咲かせる者や、寄り道の相談やら、賑やかになっていた。
「友紀、帰るぞ。兄貴二人は生徒会だと、帰りにどこか寄ろうか?」
広海がいつの間にか僕の隣に立っていた。
「あれ、広海いつ来たの?」
大きなため息を零す広海だが、いつもの事だと諦め文句も言わない。
「友紀は相変わらずぼんやりさんだな。咲良、お前は用事あるのか?」
隣で帰る支度をしていた咲良、
「今日はバイト無いし、暇」
「咲良、バイトしてるのか?学校の許可は?」
「俺の家、酒屋だから。簡単にOKさ」
「いいな、俺も雇え」
「雇えって上から目線だな」
二人はケラケラ笑い、
「友紀、支度出来たか?」
「ん、何の?」
「帰らないのか友紀は?」
「あっそうか、帰る支度だね」
バタバタと片付けてる僕の横で
「広海は大変だな、友紀はずっとこんな感じなのか?」
ため息混じりに
「ぼんやりなのは変わらないな。やり始めると早いんだが。俺なんかより集中力抜群だからな」
「俺も集中力あるって言われるが、好きな事にだけ発揮するな」
「嫌いな事には全くか、俺もだ」
勉強には、全くのほうだなと似た者同士だと長年の親友みたいになってる。
「お待たせ、帰ろう」
「おう、どうする?外で食べるか?」
歩きながら咲良が、美味しい店なら俺が何件か知ってると。
学校の外、通りに出た所で
「咲良、美味しい弁当か惣菜でも買って、俺の家来ないか?」
「いいのか?」
「周も帰ってくるし、ちょうどいいさ。友紀もいいか?」
「僕はいいよ。広海の本少し借りていい?」
好きなの選べばいいよと、広海が家の方向に歩き出すと
「こっちだったら、手作り弁当の店があるから、そこにするか?弁当だけじゃなく、お好み焼きもあるよ。そこでいいか?」
「マジか、お好み焼き食べてみたかったんだ。こっちのはフワフワなんだろ?」
広海がワクワクしながら聞く。
「広海はこっちじゃないのか?」
「俺も友紀も四国だから、ぺったんこのお好み焼きだったよ」
なぁ~って僕に話を振ってくるから、
「でも、美味しかったよ。フワフワのお好み焼きってどんなんだろうね」
三人で食べ物の話しで盛り上がり、また、店の中でもワイワイと騒ぎながら買い物を楽しんだ。
マンションを見上げる咲良が
「凄いマンションに住んでんだな」
自分ち店舗と住居が一緒の一軒家だからマンション住んだ事ないんだよと、周りを興味深々って感じだ。
鍵で自動ドアを開けエレベーターに乗り込むと
「俺、これ苦手なんだわ、胃がせりあがるようだろ」
咲良が、顔を顰めているのが、可笑しくて広海がクスクスと笑ってる。
「笑うなよ、酔いそうだ」
「もしかして、咲良ってジェットコースターも駄目なんじゃ」
「あれは、人間の乗るもんじゃない」
掛け合い漫才のような二人の話に僕も笑顔で眺めてる。
「どうぞ、入って」
中に入った咲良は
「何でこんなに広いとこに一人で住んでんだ?贅沢だろ」
「一人じゃないし、周と住んでる。ここ、周の部屋なの。俺は居候なわけ」
周さんが言ってたのってマジだったのか?付き合ってるって。
引くかと思ったのに、咲良はいいなぁと羨ましそうにしている。
夕飯には早いから、どうするって事で、僕は広海の部屋で本を物色すると言うと、二人はゲームと、用意を始めた。
広海の部屋には、たくさんの色んなジャンルの本がある。かなりの読書家の広海が選ぶ本はどれも僕の興味をそそる。
最近は、写真集とかもよく見るようになった。建築のジャンルにあった建物の写真集も心惹かれた。
広海が呼びに来るまで、本の世界にどっぷりとはまっていた。
僕が本に夢中の間、リビングでゲームをしているはずの二人は、何故かカウンターに並んで座り、難しい顔で話をしている。
「友紀は、当分出てこないから、少し言っておきたい」
作品名:白と黒の天使 Part 1 作家名:友紀