白と黒の天使 Part 1
「友紀、昼は一緒に学食にするか?かなり混むだろうが、どうする?何か買って外で食べるか?」
「僕はどっちでもいいよ」
「じゃ、売店でパンでも買うかな。教室まで迎えに行くから、広海と待っていて」
「うん、わかった」
「おまえらいい加減にしろ!」
愁兄はまだ戯れあってる二人に一括してため息をこぼす。
高校の門が先に見えて来て、二人はまたなと手を上げ行ってしまった。
愁兄がいなくなった途端、緊張してくる。
「友紀、俺が小学校で虐めたから今でも初めての場所や学校が怖いか?」
広海が情けない表情なのが可笑しくて
「そんな事ないよ。緊張してるだけだよ」
安心したのか広海にも笑顔が戻った。
僕は大丈夫、一人じゃない。
僕の世界が少し広がるんだ。勇気を出さなきゃ、自分の手で新たな扉を開けるんだ。
広海と同じクラスではなかったが、同じ並びの教室だから、いつでも会えるよと、微笑んでくれるから俯かないようにしようと頑張れる。
入学式を初めて経験する僕、周りは退屈そうにしているが、僕は何もかも新鮮に感じた。
式も終わり教室へと移動になる。広海が僕を見つけ隣に並ぶ。
「式って小学も中学もかわらねぇな、退屈で寝そうだった」
「僕はワクワクしちゃった。初めてだから」
「そうか、友紀は途中からだから初めてか~、目がキラキラして綺麗だ」
「馬鹿、変な事言わないでよ、恥ずかしい」
広海こそカッコいい、いつの間にか背も高くなり、がっしりと男らしい体格だし、顔もキリッと意思の強そうな男前。きっとモテるだろうなと羨ましくなる。
其々の教室に入り、空いてる席に座るように指示が黒板に書かれていた。
一番後ろの窓際、僕には特等席のように思えた。
窓からぼんやり外を眺めていたら
「お前、なんて名前なんだ?」
そんな声が耳に入ってきたが、自分に話しかけてくるなんてあり得ないと思っている僕は、外を眺めていた。
おい!と肩を掴まれ、僕はビックリして小さな悲鳴をあげてしまった。
「ごめん、ビックリさせるつもりじゃなかったんだ、聞こえてないのかと思ったから」
僕が恐る恐る見上げると強面の背の高い男の人が立って見下ろしていた。
「ぼ、ぼ、僕に何か用?」
隣の席に腰掛けた彼は
「俺、さくら、お前は?」
何を聞かれたのか頭が回らず、固まったまま見つめてしまっていた。
「お前の名前?聞こえているよな?」
慌てて首を縦に振り
「御坂…」
と呟いた。
彼はよろしくと言い笑った。強面だった表情が人懐こい顔に変わった。
担任からの色々と説明があり、昼休みになった。
ぼんやりと広海たちが来るのを待っていると、隣の席からサクラが親しげに
「お昼はどうするんだ?」
「僕は友達と約束してるけど」
「そっか、学食ってどんなか知ってるか?」
「兄さんが凄く混むって言ってたよ。行くの?」
「どうするかな?御坂は弁当でも持ってきたのか?」
「ううん、兄さんが購買で買ってきてくれるの」
ぎこちなく話をしてると
「友紀、周はまだ?」
広海が僕を見つけ側にきて、話をしていた彼を威嚇する。
「友紀、誰こいつ?」
「広海、そんな風に言うのはよくないよ」
広海を宥めようとするが、サクラも面白くなさそうに広海を見る。
睨み合いのようになり、
「お願いだから、二人とも怖い」
僕の震える声に広海が反応し、
「ごめん、友紀」
情けない声で謝り僕の髪を撫でる。
その様子にサクラが不思議そうに
「お前ら恋人同士?」
「はぁ?違うけど、なんか文句があるのか?」
「ないよ。俺、九鬼咲良。お前は?」
急に自己紹介をした彼に肩透かしをくらった感が拭えず、不貞腐れたように
「坂下広海」
二人をヒヤヒヤしながら見ていたけど、サクラの言葉に
「エッ、サクラって下の名前なの?」
この強面でサクラは……とポカンとしてしまった。
「よく言われる。今はこんなだが、小さい頃は愛くるしい可愛さだったんだよ。名前にピッタリのな」
ウインク付きでニヤリと笑ったから、僕も広海も声に出して笑ってしまった。
「お前、面白い。サクラってどんな字で書くんだ?まさか木のサクラじゃないよな」
「それは勘弁だよ。咲くに良いって書く。坂下はヒロミで御坂はユキ、三人とも女名だな」
ホントだねって笑い、広海と咲良がよろしくと握手をしたりしてる。
「なんか楽しそうだな。広海、待たせた」
兄二人が迎えに来た。愁兄は、なんだか機嫌が悪い、怖い顔をしている。周兄がそんな愁の様子にため息を零し、
「昼に行こうぜ、友紀、愁の事は気にするな。ただのヤキモチだから」
愁兄が僕の肩を抱き寄せ
「サンドイッチがあったから買ってるからな、中庭に行こう」
「うん、たくさん買った?」
「そんなに食べるのか?お腹空いたか?」
「ううん、彼、咲良君も一緒に駄目かな?」
愁が、ジロリと睨む。
「俺?俺は別で、なんか適当に食べるし」
顔の前で両手を振り後ずさる。
「俺はOKだぜ。愁もいいだろ?早く行こうぜ、食べる時間が無くなる」
周が広海の腕を取り出口に向かった。愁も仕方ないと
僕達も後を追った。
肩を抱かれた僕の横、咲良が
「いいのか?俺も一緒でも。俺、何も食べる物買ってないよ」
小さな声で僕に話すが、僕より先に愁兄が
「余分にあるから気にするな」
前を見たままだけど、いつもの優しい声に僕も咲良に良かったねと囁いた。
中庭の木陰に座り込み、買ってきたパンを並べる。
「焼きそばパン、俺ゲット」
広海がいち早く手を伸ばした。
「やっぱり、広海は焼きそばパンなんだな」
感心するように愁兄が呟くと
「えっなんで?」
「周が広海が大好きな焼きそばパンと歌いながら走っていったからな」
広海は赤くなった顔で周を睨む。
「恥ずかしい事、するな」
周はごめんごめんと広海の頭を撫ぜご機嫌取りをしている。
「友紀、厚焼き卵のサンドイッチあったぞ。好きだろ」
「うん、好き。愁兄ありがとう」
愁兄は、俺たちの様子にびっくりしている咲良に
「お前も好きなの取れよ。広海に全部食べられるぞ。それより、俺は、友紀の兄の葛城愁。お前は名前なんて言うんだ。さっき友紀が言ってたけど、聞いてなかった、すまん」
最初の怖い印象とは違い、優しく聞かれ、また謝られ慌てた咲良は
「九鬼咲良です。福岡から来ました。
坂下を一目見て友達になりたいと思って、よろしくお願いします」
また、愁兄の視線が少し険しくなり
「何故、友紀なんだ?」
愁兄は、野菜のたっぷり入ったサンドイッチを咲良に渡しながら聞く。
ありがとうございますと受け取り
「実家に残して来た弟に似ていて、俺とは腹違いなんで、凄く可愛いんです」
咲良が、弟を思い出し話す表情は甘々の兄の顔だった。
「友紀は俺の弟だからな、過剰なスキンシップは禁止」
わかったなと念を押し、サンドイッチを食べてた僕の頬についたソースを舐め取った。
真っ赤になった僕と目が合った咲良も真っ赤になっていた。
「咲良君、俺は、真瀬周。広海は俺の恋人だから友達でお願いしますね」
作品名:白と黒の天使 Part 1 作家名:友紀