黒闇抱いて夜をゆく 後編 探偵奇談7
日が暮れて、完全下校の時間が過ぎた。靴音を響かせることが躊躇われる静寂に、虫の声も届かない。
「伊吹先輩は先行ったよ」
「そっか。颯馬くんも、部活早くあがって、もう向かうってさっきメールきた」
郁は瑞と並んで、静かに階段を登る。今日も部活へは行かなかった。気持ちは不安と焦りが渦巻いたままだが、これでも前に進んでいると思わなくてならない。必要な休みだと思わなくては。郁は自分にそう言い聞かせながら、図書館で沓薙山や四柱様についての書物を読んだ。そこにはいみご様についての記述は見つけられなかったのだが、瑞は手がかりをつかんだようだった。
(祈っちゃいけない祠かあ…)
颯馬に見せられたばらばらにされた人形の手足を思い出す。あんなものを机に入れられたら、郁だって怖くて学校に来られないと思う。怖い。こんなこと、颯馬の言うように終わらせるべきだ。
「一之瀬、とまって」
「え?」
暗闇の中で、小さな瑞の声。
「なに…」
「静かに」
瑞の背中を見つめたまま、郁は一瞬息を止める。呼吸さえもしてはいけないような、そんな緊張した空気を瑞から感じ取ったからだ。会話の途切れた闇からは、なんの音も聞こえない。しかし、小さく空気が振動する感覚がする。風だろうか?何かが動く気配だ。
(誰かいるの?神末先輩?颯馬くん?)
気配がする。階段を登り切った場所。左に曲がれば11組のある廊下だ。壁にさえぎられて廊下の様子は見えない。しかし瑞は、そちらに感覚を集中させているようだった。
「いるな」
音もなく、瑞が一歩踏み出す。そして壁から顔を出し、廊下のほうを覗き見た。
「い、いるって誰が?」
「……」
答えない瑞の背中から、郁もそうっと廊下を覗き込んでみる。
作品名:黒闇抱いて夜をゆく 後編 探偵奇談7 作家名:ひなた眞白