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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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黒闇抱いて夜をゆく 後編 探偵奇談7

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遭遇



静かすぎる授業が進む。誰もがテキストにかじりつき、黒板と教師の話に全身全霊を傾けているかのようだ。颯馬はそんな中、独り窓の外の秋空を見ている。今日はいい天気だ。自分の席の真横に立ち、じっと見降ろしてくる黒くて異様に背の高い女がいる以外は、まったくいつもの光景だった。

睨み返してやろうかと考え、やめる。こんなキショクワルイもんより、晴れ渡った秋空を見ているほうがよほど有意義だと思うから。今朝、机の中に入れていた人形のパーツは、髪の毛だった。くだらないうえ、そろそろ芸が尽きたような気さえして失笑したくなる。

「よそ見するな、天谷。次の問題といてみろ」
「はあい」

教師に指され、数式の並ぶ黒板の前に立つ。女はついてくる。何か、ボソボソと喋っているようだが、無視を決め込む。完璧に数式を解いて教師を黙らせてから席に戻ろうとしたところで、一人の生徒と目が合った。殆どの生徒は、ノートに解をうつすことに没頭しているが、教室の前方に座るその男子生徒は、にらみつけるように颯馬を見ていた。その顔に浮かんでいるのは、難解な問いを見事に説いた颯馬への憎悪に間違いないだろう。そして同時に浮かんでいるのは。

(恐れ、だ)

彼は、青ざめている。額に玉の汗をかいて。
女は席に戻ろうとする颯馬にゆっくりとついてくる。颯馬は男子生徒のほうへ歩いてみた。彼はびくりと身体を震わせて、俯いてしまった。

(あー、これが見えてるんだな)

それが何を意味するのか。もう颯馬にはわかってしまった。彼のそばまで近づき、机に右手を突く。俯いた彼の顔を覗き込むようにして、颯馬は囁いた。

「この女のヒトさあ、ずーっとついてくるんだけど?」
「……」
「俺がこのクラスからいなくなるまで続くのかなあ?笹山くんみたいに?」
「……」
「こら天谷、さっさと席に戻らんか」
「はあい」

教師に咎められ、颯馬は席に戻った。卑怯者め、面と向かえば何も言えない癖に。そんなやつに絶対負けない。思い知らせてやる。女は相変わらずそばにいる。折れている頭から垂れる髪の下から、何かボソボソと囁いているのが聞こえるが、ひとつも気にならない。

(ぶっ壊してやるからな)

それどころか颯馬は、嗜虐的な笑みさえ浮かんでくるのだった。




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