黒闇抱いて夜をゆく 後編 探偵奇談7
風のみぞ知る
翌日。昼休みに瑞は、11組の颯馬を訪ねてみた。女子と話をしていた彼は機嫌よさそうに寄ってきて、改めて礼を言った。
「昨日はどうもありがとね」
「お疲れ」
「ねーなんかこの教室、ちょっと明るくなったんだよ。今まで天気よくてもなんか薄暗かったのに」
颯馬はそう言って笑う。一見して瑞にはわからないが、在籍している颯馬が言うからには本当なのだろう。聞けば、今朝は机の中に奇妙なものは入れられていなかったという。
「神末先輩と郁ちゃんにも、お礼しなきゃ。あ、」
「なんだ」
「うーん、俺昨日ちょーっと神末先輩に失礼なこと言ったかもしんなくて」
「あ、てめえうちの先輩に何言ったんだよ、それ聞かなきゃと思ってたんだよ」
伊吹が凹んでいたことを思いだし、瑞は眉根を寄せて颯馬を睨んだ。尊敬する先輩に無礼を働いたのなら許さん。
「そんな怖い顔しないでよ。うーん、なんか悩んでたから、ちょっと揺さぶってみたくなっちゃって」
「てんめえ…」
「かおこわっ!ちゃんと謝るってば」
この野郎。今度そんなことしたらただじゃおかん。
「…あ、すんません」
憤慨していると、教室に入りたそうにしている生徒に気づき、進路を塞いでいた瑞は詫びた。男子生徒だ。猫の様に背を丸めている。瑞が横に避けるが、彼は動かず颯馬を凝視している。その目に浮かんでいるのは、はっきりとした恐怖だった。
「…?」
瑞が怪訝に思っていると、颯馬が動いた。扉に背をつき、長い足を曲げて壁を蹴り、彼の進路をふさいだ。
作品名:黒闇抱いて夜をゆく 後編 探偵奇談7 作家名:ひなた眞白