黒闇抱いて夜をゆく 後編 探偵奇談7
(でもこんなものに頼らなくても、生きていけるよね)
綺麗ごとかもしれないけれど、颯馬を見ていると信じていいのだと郁は思えた。友だちのためにやり遂げた、達成感でいっぱいの颯馬の横顔が嬉しかった。
「しかし疲れたな」
「めっちゃ走ったもんね、最後」
「ごめんね郁ちゃん」
いつもみたいに笑ってから、颯馬は首を傾げた。
「…郁ちゃんから、瑞くんの匂いがする」
「えっ!?」
郁は慌てて彼から距離をとる。移り香が、確かにまだ香っているのがわかった。颯馬はニタアと笑うとにじりよってきた。
「さては二人でなんかいけないことしてたでしょ?」
「してないよ!!!なにいってんの!?」
「アヤシーなあ。一体どんな匂いが移るようなことし…」
「はーいセクハラでーす」
「ぎゃっ!」
頭を押さえてうずくまる颯馬、その背後には、鞄を颯馬の後頭部にぶつけたらしい瑞が、涼しい顔をして立っていた。
「それが祠?」
伊吹に問われ、郁は頷いた。髪の毛が供物であったことも併せ、颯馬が一通り説明をする。
「とりあえずこの石は粉々に粉砕して。それから沓薙山の天狗池に沈めてきます。それでもう仕舞いでしょ、いみご様」
にこやかに言う颯馬に、みな賛成した。あの山でなら、呪われたものもしっかりと清められるだろう。
作品名:黒闇抱いて夜をゆく 後編 探偵奇談7 作家名:ひなた眞白