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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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黒闇抱いて夜をゆく 後編 探偵奇談7

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しかし祈りもむなしく、少しずつ少しずつ扉を開ける音が静寂を切り裂いた。

ぺた  ぺた

暗くて見えないが、足音だけは明瞭に響き、そこにいる者の存在を明確に示してくる。伊吹は心臓がばくばくするのをおさえ、目を閉じた。
先ほどの颯馬の言葉が蘇る。魅入られる、と。いみご様に祈りを捧げる生徒たち。その心にある感情が、己のうちにはないと自信を持って言える人間はいるのだろうか。

(嫌だ)

羨ましい。妬ましい。悔しい。憎い。そんな感情、伊吹の中にだってある。環境や状況によっては、あのいみご様という存在を、自ら求めてしまうことが、ないとは言い切れない。

もしも、あの後輩に、何一つ太刀打ちできない日が来たら。

(だめだ)

言いきれないのだ。

だから伊吹は目を閉じる。魅入られてしまわないよう。見にくい感情に、気づかないよう。きつく目を閉じて膝に押し付けた。

ぺた  ぺた

足音は確実に、机の間を縫って、教室前方に近づいてきている。

(これ…もうだめなんじゃないか…?)

絶望感に全身が粟立つ。見つかっているのだ。隣の颯馬は何も言わない。足音がやみ、耳に痛い静寂に包まれる。無音。何の音も、ない。