黒闇抱いて夜をゆく 後編 探偵奇談7
「なんだってんだよ…」
「瑞くん、なんですって?」
「逃げろって…いみご様がこっちに…とか」
颯馬が素早く立ち上がった。柔らかい笑顔が、凶悪な笑顔に変わっているのが伝わってくる。獲物を見つけたハンターのように。
「俺を見つけたのかな。よし、行きましょ」
「あ、ああ…」
促されて暗い廊下に出る。その瞬間、はっきりと気温が違うことを感じる。寒いのだ。全身に鳥肌が立つ音が聞こえた気がするほどに。その原因はたちこめている霧のせいだろうか。
「なんだよこれ」
「霧ですねえ」
階段の非常灯の明かりが見えるが、ぼやけている。真っ白い霧に包まれた、闇。異様な雰囲気に、これはもうただごとではないことを伊吹も悟る。両腕をかき抱いて、辺りに目をこらす。瑞と郁の気配はない。
「先輩、ここ三階のはずなんだけど…」
「え?」
言われて教室の正面を見ると、そこに昇降口があった。なぜ、ここは三階だ。ここまで伊吹らは、階段を登ってやってきたはずなのに。昇降口の横には事務所があるはずだが、それは見当たらない。
「なんでだ?」
「…先輩、しかも開かないんだけど」
押しても引いても、昇降口のドアはぴくりともしない。慌てて窓に駆け寄って外を見るが黒い闇が詰まっているばかり。さきほどは、街の明かりが見えたはずなのに。そしてどの窓も開かないのだった。
作品名:黒闇抱いて夜をゆく 後編 探偵奇談7 作家名:ひなた眞白