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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7

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「…なんかごめん」
「え…?」

突然謝られて郁は涙をぬぐって顔をあげた。瑞は難しい顔をして、自分の足元に視線を落としている。

「一之瀬がちょっと変だなっていうの気づいてたんだ。校外試合の前から」
「……」
「でも俺も俺でいろいろあって、気にかけてはいたけど力になってやれなかった。おまえ射を見てほしいって言ってきた日あったろ。あんとき話のひとつでも、ちゃんと聞いてあげてたらよかったのに」

ずっと気にかけてくれていたのか…。心に小さな灯が点ったような温かさを感じる。

「できることあったら力貸すから」

郁はこんなときなのに感激してしまう。瑞が自分を、チームメイトとして気にかけてくれていたことが嬉しくて、こんな自分にも価値があるのだろうかと思わせてくれるようで。

「…じゃあ、須丸くんのiPod、もっぺん貸してほしい」
「え?」
「だめかな」

以前も凹んでいたとき、貸してもらった。それで元気が出たのだ。瑞の聴く音楽は郁のそれとはまったく違って、だからすごく新鮮だったことを覚えている。お守りみたいに、繰り返し聴いたことも。

「いいよ」

瑞は笑って、鞄の中からそれを取り出しながら言う。

「凹んでるときは、もうとことん落ちて落ちて、からっぽになるんだ。そうなったら、あとは勝手に浮上するときが来るから、それをひたすら待つ」
「待つの…?」
「うん。焦って結果を求めようとする心に、現実は追いつけないから。そのすれ違いにまた苛立って焦りが大きくなってしまう。だったらただ待ってた方が気持ちの負担が少ないって、俺はそう考えるようにしてるんだ」

ただ待つ…。それは早く自分の射を取り戻したいと焦る郁には、一番難しいことのように思えた。しかしそれこそが、今の自分に一番必要なことのようにも感じた。

「俺のおすすめ、このアルバム」
「ありがとう…聴いてみるね」

言葉少なに自転車を押しながら、二人で交差点までやってきた。夕暮れはもうすっかり夜へと姿を変えている。

「じゃあ、また明日ね」
「おー」

瑞に別れを告げて横断歩道を渡る。