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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7

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稽古が終わり、部員らが次々と帰っていく。鍵当番の郁は、戸締りを終えてからも、何となく弓道場を去りがたくて立ち尽くしている。帰らなくちゃ。でもこのまま帰っていいのだろうか。こんな不安を抱えたままで。周りはどんどんうまくなるのに。もう一度弓を引いてみようか。でも。

(焦るなって、先輩も言ってたよね…)

自分にそう言い聞かせ、弓道場を後にした。職員室に鍵を返し、とぼとぼと歩く。風が、ずいぶん冷たくなった。秋は急速に深まり、夏の名残を隠していく。寂しいような、なんだかそわそわと落ち着かないような季節だ。

「一之瀬」

自転車小屋に行くと瑞がいた。郁を待っていたのだろうか。数週間前に突然短く切った彼の髪型も、もう見慣れてしまった。緩い癖毛が、風に吹かれて柔らかく揺れている。穏やかな目で、彼は郁に問いかけてきた。

「早気か?」

問われ、頷く。郁の不調に、彼も気づいていたようだ。

「そうみたい…」

郁は自分の状態を、伊吹に聞かせてもらった話と併せて瑞に伝えた。

「俺も、早気なった」
「そうなの…?」
「うん。弓始めたころ。中てたくて中てたくてしょうがなくて、動作に気持ちが全く入らなくなって…でもみんなに協力してもらって、なんとかなった」

伊吹も言っていた。弓をやっていれば通る道だと。郁から見えれば熟練者の瑞も、悩んでいた時期があったという。

「大丈夫か?」
「…さすがに凹むよ。試合でも結果出せないし、調子崩すし…もうなんか、どうしよーね、あはは…」

だめだ。涙が零れてしまって、郁はうつむく。声が震えているのが自分でもわかるが、止められない。情けない!

「頑張ってたもんな」

優しい言葉がいっそう涙を誘って、郁は答えられない。