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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7

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「あの、会が保てないんです。離しちゃうんです、手が勝手に。何回やっても。なんでですか?」

どうしよう、とこみあげてくる不安を伊吹にぶつける。いつもみたいに引けない。こんなことは初めてで、焦る。

「後ろで見てて思ったんだけど、早気だと思う」
「はやけ…?」
「会の状態を保てず矢を離す症状だな。原因にはいろんな説があるけど…スポーツでも大事な場面でミスとか、怪我のトラウマとか精神的な理由が原因で、思うようにプレーができなくなることがあるだろ?あれに似てると俺は思う」

イップスとかいう、野球選手がよくなるやつだろうか。そう口にすると、伊吹は頷いた。

「練習試合でのことで、一之瀬はずいぶん悩んでたろ」
「……」

先だっての校外試合。緊張で自分の射などろくにできず、郁はチームの足を引っ張った。結果はいい。経験を積むことが目的だったから。しかし郁を愕然とさせたのは結果ではなく、ここまで頑張ってきたことを何一つ活かせなかったことだった。自分はずっとこのままなのだろうか。いつまでも上達せず、試合のたびに心を乱して。そんなことがずっと、心に引っかかっていた。

「…あたし怖いです。今度の試合でもまた同じように集中できなかったら、なんのために稽古してきたんだろうって、今までの全部が、無駄になっちゃいそうで。そんなことばっかり考えてて」

足元が崩れていくような不安が駆け巡っていく。

「俺も去年、射形崩して悩んだよ」
「え?」
「もたれって言って、一之瀬の早気とは逆に、矢を放てなくなるんだ。自分の意思で離れができない。つらかったな」
「原因は…なんだったんですか?」
「俺は長い間、弓返りできなくてな。弦で頬や腕を打ってたから、その痛みからくる恐怖心でだと思う」