黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7
「おっつかれさまでーす」
11組で待っていた颯馬と合流して、その能天気さにほっとする。すでに日の暮れた時刻。校舎の中は薄暗くひとの気配がなかった。郁も残っていたようで、不安そうにあたりを見渡している。
「祠ね、とりあえずこの棟をしらみつぶしに探してみようと思うんですよ」
颯馬が言う。瑞がお狐様に聞いたところによると、いみご様は呪者の身近に存在しているらしいのだ。三階建てのこの特進棟の各部屋をしらみつぶしに探す、というローラー作戦らしい。
「俺と颯馬で二階から上を探します。先輩と一之瀬は一階を」
一階の事務所にはまだ職員が残っているし明かりもあるから、ということらしい。夜の学校というのは、特にこの高校は、生徒が思っている以上に危険なのだ。
「見つかんなよ」
「アーイ」
颯馬の返事に不安は募るが、二手に分かれての探索を開始する。
郁とともに一階に向かいながら、伊吹は神経をとがらせていた。郁も同様らしい。昨夜聞いた颯馬の話を思い出しているのだろう。
ひとを呪う。
それが現実に、自分の学校で起きている。普通通りの顔をして、裏側でひとを妬んでいる。もいだ人形の手足を、憎い相手の机に入れて…。それがもう怖い。ひとはそこまで、誰かを憎むことができるのか。
「怖いですよね」
三年生の教室の中を検めながら郁が言う。ロッカーや教卓、不審なものは見つからない。
「颯馬くん平気そうだったけど…あたし自分があんなことされたら、きっとすごいショックだと思います」
「そうだよな。でも俺はさ」
「え?」
「…いや、うん、そうだな」
作品名:黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7 作家名:ひなた眞白