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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7

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感情の森で



夕闇の落ちた校舎を抜け、主将会議を終えた伊吹は、弓道場に向かう。まだ終了時刻まで少し時間がある。一射でも引いておきたい思いからだ。お疲れさまです、とすれ違う部員達と言葉を交わして辿り着くと、瑞が残っていた。熱心だなと射を続ける背中を見守る。

「あークソ、違う…」

矢を放った瑞がぼやくのが聞こえる。残心はどうしたと内心で突っ込みつつ、伊吹はもう幾度目かわからない尊敬のまなざしを後輩に向けた。

(満足してないんだよなあ。あんなうまいのに…)

いまぼやいた射だって矢は的に水平に刺さっているのに、彼はなにやら気に入らないようで、行射を続けている。

郁のスランプに、えらそうにアドバイスをした伊吹であるが、自身にもまた迷いが生じていることを自覚している。技術というより、モチベーションの問題なのだが。
続く試合で活躍する一年。とりわけ瑞の存在は、さきほど陸上部の主将と交わした言葉の通り、一部の二年生の中に焦りや羨望を生んでいる。

全国を目指し、インターハイに出るのが当然であるこの部に、競う合う、高め合うという環境は不可欠だ。それがあるから強豪であるともいえる。

それが伊吹には実のところ苦であった。どちらかといえば、ギスギスしたことは苦手だし、できれば他人と競わずにやっていきたい。争いになるくらいなら自分が折れることにも、ある程度であれば抵抗はない。だからいま、瑞を中心とした微妙にひりついた空気が少し苦痛なのだった。誰よりも努力している天才一年生と、先輩である二年生。その間で板挟みになることも主将の仕事なのだとは思うけれど。

(レギュラーチーム、入れ替えてほしいっていう要望も来てるし…)

弓道の団体戦は三人一組で戦う。A、B、C、D…という順に顧問やコーチが固定しているチームが存在しているのだが、トップのAチームに常に瑞が入っていることに納得していない者もいるのだ。

「伊吹だって悔しいだろうよ。結果だけじゃなくて、全員の努力や経験値も加味してほしいと思わないのか」

そう言われ、Cチームに所属する伊吹は言い返せなかった。悔しさは、確かにある。部活動なんて言うのは実力主義だから、強い奴がレギュラーになるのは当然といえば当然だ。

だけど伊吹は、部員一人ひとりの努力も願いもよくわかっている。レギュラーを失った部員もいる。瑞が努力もせずAチームに居続けているわけではないことも当然理解している。あいつは人一倍頑張っているから。それでも、二年生の気持ちがよく理解できる伊吹には、瑞は眩しいばかりで。