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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7

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昼休み。
瑞は用務員室の浅田にいみご様について尋ねてみたが、古くからこの学校にいる彼にもわからにとのことだった。特進クラスにのみ伝わるということだから、生徒たちの間でひそかに囁かれてきた話なのだろう。他言無用、持出禁止の暗黙了解が生きているわけだ。しかしその歴史ある秘密も、慣習じたいをぶっ潰したいという颯馬によって崩されたわけだが。

「お狐さん、いる?」

中庭の祠にこっそり呼びかけるこの。中庭を住処としている神様の使い、白狐。瑞とは親交があるから、もしかしたら何か教えてくれるかもしれないと期待をしているのだが。

「あれに手を出せば、祟りの対象でない者にも影響があるぞ」

背後から囁くような声がした。

「あ、お久しぶり…」

白髪の、作務衣姿の少女が、瑞の背後に立っている。これこそが神の使いの白狐である。先だって、裏庭の工事のさい大いに祟り、夢を通して瑞に助けを求めてきた狐の化身した姿。学校を護る神の一人だ。大いなる力を秘めている神であるが、ただ静かに自分の庭で暮らしたいという素朴な願いのもと、穏やかにこの庭で過ごしているらしいのだった。

「『いみご様』について何かご存じですか」
「…あれは古い古い不浄なるものぞ。われとて迂闊に手を出せぬ。穢れに触れればそこから移る。広がり、腐れて、人心を惑わす。悪意を餌に生きながらえておる」

神様でも手に負えない厄介なやつ、という解釈でいいのだろうか。狐の少女は膝を抱えるようにして、ちょんと瑞の隣に座った。

「他者を羨むひとの欲望がある限り、あれはいずる。滅することができるとすれば、神と同等の力くらいか」
「祠があるって聞いたんですけど」

祈ってはならぬ祠が。

「そうさな…おぬしなら…」

狐はそう言うと、意味ありげな視線を瑞に投げる。大きな瞳が心の中まで覗き込んでくるような感覚に、伊吹は背筋が粟立つ感覚を覚える。こんなに身近で愛らしい姿だが、人間とは違う存在なのだと思い知る。

「陰の気は日の当たらぬ、人知れぬ場所に宿るもの。呪者の身近なところに」

どういう意味だと聞き返そうとしたが。

「すーまーるー!」
「食堂いこーぜ」

友人の呼ぶ声が届き、一瞬だけ狐から視線が外れた。次に見たとき、彼女の姿は消えていた。

(日の当たらない、人気のない、それでいて呪いを行う人間の近くにあるってことか…?)

瑞は狐の祠に一礼すると、中庭を後にした。





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