黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7
「すっげえ頑張った結果祟られるなんて、許せる?俺は絶対納得できない。正直者がばかをみる、まじめなやつが損をするっていうの?あれ、俺大っ嫌いなんだよね」
その言葉に、伊吹は颯馬への認識を改めた。軽薄な外見とは裏腹に、正義感の強いやつなのかもしれない。心を病んだクラスメイトのために、彼は相談に来たのだ。
「自分の努力不足の結果を他人に丸投げするなんて。そんなやつに手を貸す神様なんて許せないよ。須丸くんは、幽霊とか、そういうものが見えるんでしょ?力を貸してくれないか。こんな悪習、俺で最後にしたいんだ」
瑞は、これまでのやりとりを反芻しているように黙っていたが、やがて口を開いた。
「おまえは、『いみご様』に祈ってる犯人を見つけたいのか?」
瑞が言うと、颯馬は首を振る。
「犯人なんか興味ないよ。どーせちっぽけでくだらない人間だろ?俺は、おおもとをやっつけたいんだ。『いみご様』をね。そうすれば、笹山くんも学校に来られる」
そういってにやっと笑う顔に、どうしようもない蠱惑的なものを感じ、伊吹は目を逸らす。なんだか、とてつもなく危険なことをしようとしている。そんな気がして。やっつける、神様を?
「俺が全部を解決できるかはわかんないけど…力を貸せるなら」
瑞が慎重な承諾をすると、颯馬はにっこり笑った。
「ほんと?ありがとう。とりあえずさー、その祈っちゃいけない祠とやらを見つけたいんだよね。犯人シメて聴きだそうかとも思ったんだけど、うちのクラスまじで陰湿で、どいつもこいつも怪しくてさー」
そんな学校生活絶対嫌だ、と伊吹は颯馬に同情する。蹴落とし蹴落とされる、そんなレベルの学力ではない己の平凡さに安心する。
「明日、用務員の浅田さんに聞いてみよう」
八時になろうとしている。四人はこっそりと校舎をあとにした。
新たな事件の不吉さを思わせる青白い月の光に、伊吹は不気味なものを感じる。
そして。
(努力不足…すがろうとする弱さ…)
伊吹の心には、犯人を評した颯馬の辛辣な言葉が刺さったままだった。
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作品名:黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7 作家名:ひなた眞白