黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7
「アレが須丸くん?めっちゃもててない?」
「……」
弓道場の入り口で、瑞が何やら女子に囲まれている。部員ではないから、瑞の部活が終わるのを待っていたらしい女子の集団だった。瑞は何やら困ったように応じている。
(ウワー…神末先輩、すっごい不機嫌…)
瑞の背後には、神聖な弓道場で出待ち喰らってヘラヘラしてんじゃねえぞ…と絶対思っているであろう神末主将の結構に不機嫌な顔が見えた。怖い。
(なんか、声かけれないや…)
なんとなく距離を感じて、郁は尻込みする。しょせん郁はただの同級生だ。ああして綺麗な女の子たちに囲まれているとき、それを思い知らされる。
特別な感情を抱いた以上、郁にとって彼は特別な男の子。いうなれば、王子様だ。
そして瑞のことを好きな女子はきっとたくさんいる。だけど瑞にとってはその誰もがありふれた好意を寄せてくる一般人にすぎない。彼のお姫様になれるのはたった一人で、それは郁じゃない。もしかしたら郁が知らないだけで、もう心に決めた子がいるかもしれない。その他大勢の郁には見せない顔で、優しさで、その子を大事にしているのかもしれない。
友だち以上にはなれない。だけど友だちなら、部活の仲間なら、瑞は郁のことを大切にしてくれる。
(だから、ああやって特別になりたいなんて、思っちゃダメ…)
どうしよう。なんだかつらくなってきた。
「おーい、きみ須丸くん?」
突然、颯馬が瑞に声をかけた。女子の集団がこちらを振り返り声をあげる。
「あーっ、天谷くんだー」
「なにしてんのー?新しい彼女~?」
女子らが何やら親し気に話しかけてくるのを、にこやかに受け流す颯馬。
作品名:黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7 作家名:ひなた眞白