黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7
「…!」
気配に顔をあげると、教室の扉が開いて、男子生徒がこちらをのぞきこんできた。
「ねえ」
「あ、はい?」
郁はイヤホンを外して立ち上がった。見たことのない生徒だった。
「須丸瑞って、いる?」
瑞を訪ねてきたようだ。
「いま、部活行ってるけど」
「えっと…何部だっけ?」
「弓道部」
「フーン。けっこーまじめな感じ?」
無造作にセットした明るい髪を触りながら微笑みかけてくる。派手なひとだなと郁は思う。見るからにチャラ男である。語尾をのばすような話し方がかのんびりしているからだろうか、話していると気が抜けていくようだった。
「弓道場ってどこか知ってる?俺、須丸くんに用事があるんだけどなー」
「えっと、うん。一緒に行こうか?」
「え、いいの?ありがとー!助かる!」
「でもいま部活中だから…終わってからじゃないと会えないかも」
郁は、瑞が副将であることや、自分が部員であることを話す。じゃあ部活が言わるまで待つ、と彼が言うので、隣の席をすすめた。
作品名:黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7 作家名:ひなた眞白