小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7

INDEX|10ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 


「いたのかよ」

おはようございます、と頭を下げる瑞。そばにくると、フワと彼の香水の匂いが広がった。死んだ祖母がつけていたというイチジクの香水。甘い香り。もうすっかり馴染んだ瑞の匂いだ。

「一之瀬は見た目よりずっとタフだし、芯も強いですから。いままで教えてくれた先輩らのことも考えてるだろうから、無責任で投げやりなこともできない。だからちゃんと立ち直ると思います」

そういって、瑞もまた郁の背中を見送っているのだった。

(よく見てるんだよあ、一之瀬のこと。こいつにとっては飽くまで部活の仲間ってことなのか、それともやっぱり特別なのか…?)

郁のほうは、この頃ずいぶん瑞を意識しているように思う。自身の射について悩んでいたから、レギュラーとして活躍する瑞を強く意識しているのだと思っていたが、そうではないだろう。たぶん恋愛感情に近いものを、郁は瑞に持っている。
瑞はというと聡くカンのいい男だけれど、他人からのそういう感情には疎そうである。周囲から多くの視線と興味を注がれる瑞は、そういった特別な感情に気づきにくいのではないかと、伊吹は半分ひがみ根性で推測する。それとも女子の好意など、興味もありがたみもないとでもいうのか?伊吹はなんだか勝手に腹ただしくなる。

「…チッ」
「先輩!何で舌打ち!?」
「…おまえはムカツク男だなと思って」
「ええ!?なんで!?」

慌てふためく瑞に構わず鍵を開ける。

「なに怒ってんすか!」
「べつにー」

少し前まで遠慮していた瑞との関わりが、少しずつ血肉の通ったものに変化しているのを感じる。

沓薙山で、二人して迷い込んだ不思議な空間。あのときから、少しずつ、伊吹の不安は小さくなっていった。

(不安だったのが嘘みたいだ…)

本当のことを知るのが怖くて、ずっと避けていたのだけれど。

互いに因縁があることを確信したいま、もう目を背けられない。因縁の正体がなんであれ、過去の自分たちがどうであれ、伊吹が瑞に対して感じている罪悪感の正体がどんなものであれ、もう構うものか。いつかすべてを知るときがきても、独りじゃない。隣に瑞がいるはずだ。

そうやって開き直ったら、瑞と真正面から向き合えるようになった。肩の力が抜けた。

「なんか先輩、最近俺にだけ冷たいっていうか容赦ないっていうか」
「はいはい稽古稽古」

秋空はどこまでも高く、晴れ渡っている。