覇王伝__蒼剣の舞い4 【第一部完】
2
「拓海〜、元気してたぁ♪」
どうしてこうも、こういう人間に懐かれるのだろう。
げんなりとしながら、拓海は何とか笑顔をつくる。
「ええ、何とか…鬼宿さま」
「その“さま”というのはナシ。格は拓海の下だし」
「そんな事ないですよ」
謙遜しながらも、鬼宿の言葉はため口である。南方七星士と云えば、本来朱雀の下につく七人である。
「朱雀ヨリ偉イ」
「え…」
「ほ、と、ほ、り〜っ!」
いきなり炎が拓海に向かってくる。
「焔さま、いきなり何するんですか!?」
「タクちゃん、今日の朝食はそいつだ!!」
「グァ!」
赤い鳥が、拓海の肩で鳴く。名を星宿。白虎の星宿と同じ名前であり、鳥にして南方七星である。
「やめてください。可哀想ですよ」
「僕は可哀想じゃないわけ?いつか本当に焼き鳥にしてやる」
「拓海〜、彼本当に朱雀?」
「…ええ…」
「拓海、正直」
『星宿』が、面白そうに鳴く。引きつる笑顔ににじみ出る躊躇いは、『星宿』にも理解るようだ。
だが、南方七星が見方につけば心強いものはない。
心宿の存在は気になるが、悔やんでいる暇はない。
「朝食、一緒にいかがですか?」
「そのつもりで来たんだ♪」
「こら鬼宿、タクちゃんにくっつくなぁ!」
南国の陽気な声に包まれて、彼らは城の中へ消えていく。
「ふふ…」
城壁で、男が笑む。
碧色の双眸と、鱗のような瑠璃色の鎧、その手に白銀の剣。
「心宿さま」
「お前の働き、見せてもらうぞ。奴らがもっている二つの珠を奪え」
「はい、お任せを」
銀色の髪がハラリと、男の顔を隠す。
そして、黒抄では___、
「久しぶりだな?と云っても、お前は答えられぬか?」
卵形の容器の中で、一人の女性が眠っている。赤い液体が注がれ、躯を繋ぐ幾つもの細い管。
「吾の心に背いたお前たが、こうして吾の元で生きられる。永遠にな」
黒王・黒狼は、クククと笑った。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い4 【第一部完】 作家名:斑鳩青藍