覇王伝__蒼剣の舞い4 【第一部完】
「心宿」
城壁に立つ男に、すっと現れる白い人影。
「白王陛下、かような場にお越しとは」
「吾だって、外には出るよ。何もない砂だらけの景色が広がるだけだが」
クフィーヤと呼ばれる布を被り、豪華宝飾の留め具、覗く腰まである金色の巻き毛と、同じ色の双眸、美しい云う言葉が男に当てはまるとしたらこの男かも知れない。
「何か」
「戻ってから、お前が顔を見せない。蒼の谷で、何かあったか?」
「いえ、陛下の御心を煩わせるような事は何も」
「本当によく働いてくれる。お前のお陰で、天狼星とドラゴン七星・尾宿の龍珠が手に入った。これからも期待しているよ」
「は。何なりと」
心宿は、深く頭を下げた。
ドラゴン七星___、天から下ったドラゴンが人と転生、龍体は七つの珠となって地の守護の為に地に宿った。角宿(すぼし)、亢宿(あみぼし)、氏宿(ともぼし)、房宿(そいぼし)、尾宿(あしたれ)、箕宿(みぼし)、そして___心宿(なかご)である。
その七つが、覇王の誕生と共に覚醒し、おおいなる力が目覚める。
覇王時代、聖連が母から聞かされ、聖連は密かにその時を待った。
後は蒼剣を奪えばいい。
蒼剣は、この吾を覇王と認めざるを得なくなる。
「お前にこれを授けよう」
「天狼星を?」
「いずれ必要になる。今以上の力が与えられる」
白銀一色の剣、天狼星。
「“眠れたるもの貫かん”?」
刀身に刻まれた文字に、心宿が眉を寄せる。
「____蒼王の心臓だよ」
「白王陛下…!?」
「覇王誕生に、ドラゴンは生け贄を求めているのだ」
クククと笑う聖連に、心宿は天狼星を手にカタカタと震えた。
そう、吾は蒼王を倒す。吾が吾となる為に。
「謹んでお受け致します」
心宿は、握る手に力を込め、聖連に敬礼した。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い4 【第一部完】 作家名:斑鳩青藍