覇王伝__蒼剣の舞い4 【第一部完】
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黒抄国、王城。
黒王・黒狼の前に、左右将軍が顔を揃えた。
「密偵からよい報せが参った」
「よい報せとは?陛下」
「白碧で何かあったようだの。側近が行方知れずだとな」
「まさか…あの須黒」
「この黒狼を虚仮にした報いよ。聖連め、これで我が黒抄に刃向かう力を逸したな」
「白碧へ兵を?」
「それよりも、もう一つよい報せがある。清雅が、こっちへ向かうとな」
「陛下」
「闇己、義勝、今度こそ清雅の命と蒼剣奪え。白碧より先にな」
「畏まりましてございます」
二人が去ると、すっと黒狼の玉座に近づく気配がある。
「お前も会いたいか?あれに」
返事はない。美しい女性だが、光を宿さぬその眸には黒狼も映さず、長い髪をふわりと靡かせて戻っていく。
そんな黒抄で、彼らも動き始める。
「蒼王が、ここへ来るそうだ」
「間違いないのか?」
「ああ」
「で、俺たちはどうするんだ?」
「未だ動くなとの指示だ。本当に蒼王が、覇王たる人物か見極めたいそうだ」
「呑気だなぁ、室宿は」
「それより、問題はこいつだな」
二人の若者の前で、大きな怪物が睨んでいた。
ここ最近出没し始めた怪物である。
「寄コセ…珠ヲ」
「壁宿(なまめ)、こいつ俺たちが北方七星だって知ってるぜ」
「ドラゴンノ珠ヲ…寄コセェェ…!」
「違う。奴が狙っているのは、俺たちの珠じゃないっ」
「だったら、何故向かって来るんだよ」
「知るかっ」
無数の触手を伸ばし、怪物は攻撃してきた。
それを木の上で、冷ややかに見下ろす男。
「暫くは北方七星士は動けんな」
「はい、黒抄には他にもおりますゆえ。よい足止めになりましょう」
「余計な事を」
「白王陛下は心宿さまに期待されております。日影どの、須黒どのと失い、もはや右腕となるのは貴方さま。四国統一と、白王さまが覇王となられる為には犠牲は仕方ありませぬ。黒抄など我らが敵ではありませぬ」
「化け物の餌とさせる、か?」
心宿は、顔にかかる金髪を掻き上げ冷たく嗤った。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い4 【第一部完】 作家名:斑鳩青藍