覇王伝__蒼剣の舞い4 【第一部完】
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____もしもの時は、お前がやれ。
顔にかかる銀髪を掻き上げながら、星宿は溜息を漏らす。
彼にしては珍しい心の揺れ。
「星宿」
「狼靖さま」
「どうかしたのか?」
彼に、話そうか。そうだ、彼は___。
「お話があります。清雅さまは誰にも云うなと口止めされているのですが。今度ばかりは、吾には自身がありません」
「また清雅さまが無茶を?」
「ええ」
「なら吾にも無理だな」
「貴方は、清雅さまの叔父上でいらっしゃる」
「それでも無理だよ。知っているだろう」
そう、清雅は狼靖にでさえ止められない。蒼国建国時、蒼王に就かせたのはいいが、なかなか城には居着かず、単身刺客に向かっていく彼を、狼靖はただ護るしか。
覇王として選ばれた清雅を、狼靖は嘗て前覇王を護ったように。
それは、星宿も同じ。
「吾に___清雅さまを殺せません」
「…今、何と云った?」
「もしもの時は、殺せと云われたんです」
「笑えん、冗談だ」
「それならよかったんですが…」
そう、冗談なら。
いつもように、星宿も明るく聞き流せた。
何故彼ばかり、こんな過酷な運命なのか。
「星宿、どういう事だ!?」
「それは___」
星宿が、口を開いた時である。
____ドンっ!
王城の西側が突然崩れた。
「何が…」
駆けつける四獣聖の前で、天狼が青ざめている。
「天狼、何があった!?」
「星宿さま」
彼が指さす先で、その人影は立っていた。誰か気付いたのは拓海である。
「清雅…さま?」
蒼剣を抜き、真っ直ぐにこちらへ向けている。
「吾ノ躯ハ、何処ダ」
「清雅さまっ」
「吾ノ躯ヲ渡セ」
『星宿、もし俺が奴に支配されて暴走したら構う事はない。俺ごと、殺せ。此奴は、不完全なまま目覚めさせちゃいけねぇ。いいな?星宿』
___清雅さま。
星宿は、ゆっくりと剣を抜いた。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い4 【第一部完】 作家名:斑鳩青藍