あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6
曾祖父の体験が事実で、そこから導き出した伊吹の結論が正しいのならば。
瑞が、本当に自分を探して生き死にを繰り返しているのならば。
そんな悲しい思いを何度も何度も何度も繰り返しているというのならば。
断ち切れるのは。
いまこの世界のこの時間、このときの二人しか、ないのだ。
「おまえに、話したいことがあるんだけど」
思い切って切り出した。よせ、とやはり自分の中の誰かが止めようとする。伊吹はそれを振り払い、己の思いを正直に語ることにする。開けてはいけない扉の前で、自分はそのノブを握りしめ、力をこめる。
「…なに?」
意を決したような伊吹の表情にただならぬものを感じたのだろう。こちらを向いた瑞の表情にもまた、緊張がうかがえた。
「でも…それ言ったら、もういろんなことがひっくり返りそうな気がして怖いんだ」
「怖い?」
「ずっと怖かった。おまえに初めて会ったときからだ」
「俺のことが怖いの?」
「違う。自分自身の知らない自分を知るのが怖いんだ」
生まれ変わり、因縁。そんなことが本当にあるのだとしたら、なぜこんなに懐かしさと一緒に罪悪感のようなものを抱えているのだろうか。自分はかつて、何か大きな罪を犯しているかのような感覚。
瑞の表情が戸惑うような色を浮かべ、伊吹を見つめている。
「おまえのこと、思い出したらダメな気がするんだ。初めて会った時から、ずっとそう感じてきた。絶対知ってるはずなのに、思い出すのはいけないんだって、自分の中の何かがずっとそう感じているんだよ。たぶん俺は…何か悪いことをしたんだと思う。おまえに」
思い出したら、それが明らかになるのではないか。それを強烈に恐れている。
作品名:あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6 作家名:ひなた眞白