あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6
部活が終わるころには、もうすっかり日が落ちていた。夏はあんなに日が長かったのにな、と伊吹は季節の変化を実感する。秋が来て、夜の闇はいっそう濃い。
「お先です。戸締りお願いします」
「うん、お疲れ」
部員達が去るのを見送る。施錠の確認を終えて着替えようかと更衣室に向かった時。
「主将、ちょっといいですか」
瑞に呼び止められる。まだ胴着姿だ。残って自主練習をしていたらしい。こいつのすごいところは、自分に絶対満足しないところだと思う。自身を未熟者だと思っているところ。
「来月の試合のことなんですけど」
「うん?」
「俺ら二年は、勝つことよりも、試合でしか経験できないことを重ねたいんです。少しでも自信持てるように」
まじめな顔をして、一生懸命にそんなことを言う瑞。こいつなりに、副将としていろいろ考えているのだなと、伊吹は感心する。
「だから二年だけでのチームを作ろうかなって明日顧問に…って、聞いてます?」
無意識に、にやにやしていたらしい。瑞が眉根を寄せて聴いてきて、伊吹は表情を引き締めた。
「あ、ごめん。なんかおまえ、まじめに副将してるなって思って」
むっと口を尖らせる様は、照れ隠しだろうか。褒めてるんだよ、と慌てて付け加える。
「髪までこんなにして…」
まさかばっさり切るなんて思わなかった。洒落者だから、髪にもかなりこだわりがあっただろうに。無造作に切られてはいるが、よく似合っている。男前があがったと大好評らしい。
作品名:あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6 作家名:ひなた眞白