あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6
部活が再開して、休み明けのテストが終わり、思っていた以上にハードな一週間が終わろうとしている。瑞は疲れのとれない身体をなんとか起こして、六時間目の授業に集中しようと努めていた。
(来月はは校外試合…新人戦も近い。団体戦はチーム編成どうすんだろ?一チームだけでも二年だけで編成できると、いい経験になるんだけどな。緊張感あるし、気持ちも入りやすい)
副将になってみて変わったのは、他人のこと、全体のことを考えるようになったことだろうか。自分の技術と心を磨くだけではいられない。全体に目を配り、主将の思いを汲み、全体的なレベルアップを図る。結構な役回りではないか。だがこの役目がなければ、弓道家として気づけなかったこともたくさんあるだろう。感謝すべきなのかもしれない。
「この町の、沓薙山(くつなぎやま)の歴史もまた古くてなあ」
退屈だった歴史の授業が脱線し、この町の話になっていった。学校の裏山の話だ。おじいちゃん教師の穏やかな声に眠気を誘われそうになっていった瑞だが、意外にも興味深い話へと移っていき、聞き入ってしまう。
「神様が住む山なんだ。四柱様(よはしら)と呼ばれている。運命を定める天狗や、宝を与える童神がいるなあ。隠された地蔵様が徳を授けて下さったり…」
神の使い、白狐。虹のたもとの宝を護る白虹童子。生まれてくる魂の運命を定める天狗。違う世界へと連れて行ってくれる逆さ地蔵。
「山は命の生まれるところであり、一生を終えた命が帰っていく場所でもある。死者の魂が帰るところというわけだな。そもそも古来より日本にある信仰というのは…」
京都にもそんな場所があったな、と瑞は故郷を思い出す。あそこも歴史が恐ろしく古い土地なのだ。
「よし、来週三組と合同で沓薙山登山にするか!実際に見たほうが勉強になるだろ!」
教師がうきうきして言う。おじいちゃんなのに大丈夫だろうか、と全員が心配する空気が漂う。
「登山って…ダイジョブなんですか?」
学級委員長が聞くと、教師は頷く。
「近所の高齢者や保育園児の散歩コースだ。登山というよりハイキングだな。30分もあれば山頂に着くぞ。水分とオヤツ持って集合しとけー」
作品名:あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6 作家名:ひなた眞白