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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6

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「いいんだ、もう。俺はもう、あのひと困らせたくないから。だからいいの」

なにそれ、ともう一度繰り返す。

「すっごい落ち込んでたじゃん。それなのにもういいって、中途半端だよ。納得してないでしょ?」

郁は、喧嘩したらその日のうちに仲直りしたい派だ。相手が悪くても、自分から歩み寄りたい。相手の意見を聞きたい。自分の思いもわかってもらいたい。大切な友だちならば特にだ。そう力説するのだが、瑞は諦めたように嘆息するのだった。

「……そーだけどさ、もう自分の気持ちだけ押し付ける子どもじゃいらんないんだよ」

子どもでいいじゃん、と言いたくなったが、しょせん部外者の郁なのだ。これ以上自分の意見を振りかざすのも憚られた。何かできることがないかと聞くのも、おこがましい気がして郁は口を閉ざす。

「ごめんね、なんか変に気ィつかわせて。的前行ってくる」

瑞は弓を手に行ってしまった。
釈然としないものを飲み込み、郁はひとつ息を吐く。気にしなければいいのに、どうしても気になる。それはやっぱり、興味というよりは恋愛感情に近いのだと思う。

(あーもう、わかんない)

副将の射を、部員たちが正座して見つめている。そこに伊吹もいた。

矢を番える美しい所作。空気。唾を飲み込むことさえ躊躇ってしまう緊張感の中、瑞の腕が、肘が、悠然と動く。完成されたような動作の中に、柔らかさがある。心と身体と呼吸、弓を引くための動作のすべてが繋がって、流れが生まれる。見惚れてしまう。気が付いた時には、矢が的を貫いていた。

「神がかってんなあ」

郁の隣の二年生が呟くように言うのが印象的だった。