あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6
瑞は、頂上の天狗鳥居の前に立ち尽くしていた。霧は晴れ、雨は止んでいる。真っ赤な夕日が海の向こうに沈んでいくのが見えた。身体も濡れていないし、まるでたったいま夢から目覚めた風だった。
「…これって、逆さ地蔵のせい?」
自分は、「いま」ではない「どこか」へ行っていたのだろうか。それとも、全部夢?世界中が夕焼けで真っ赤だ。雨上がりの澄んだ空気を突き抜ける強烈なその色に、しばし見惚れる。水平線を見つめ、ぼんやり佇んでいると。
「須丸」
「…あ!」
同じように呆けた顔で、伊吹が鳥居の向こうから歩いて来た。
「先輩どこ行ってたの!?勝手にずんずん進んでさ!」
「はあ!?俺のセリフだ!おまえどこで何してたんだよ!」
「だいたい…!あれ、ええと、どこではぐれたんでしたっけ?」
「……思い出せん」
どこからどこまでが現実だったのかはわからない。二人して白昼夢でも見ていたのだろうか。
「…先輩も、見た?」
たくさんの囁きと。
あの老人と。
小さな伊吹に出会って。
雨の中、このひとの手をとって。
今度こそ間違えないと。そう強く思った。
「同じ夢を見たのか?」
「さあ、わかんない…」
囁きが蘇る。老人の言葉が蘇る。
強い悔いを残した別れが、瑞を幾度も転生させていると。
(定めの子らよ 雨を降らせる神の子と 神の子を喰らった罪子よ)
囁きのその部分を、鮮明に思い出せる。引っかかる。何度も何度も、心の中で反芻する。どういう意味だろう。
作品名:あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6 作家名:ひなた眞白