あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6
「須丸は、あの階段の先へ行ったんだな…おまえはそれを望んで、俺が叶えた。叶えなくてはならなかった。だけど本当は、行かせたくなかった…」
伊吹が呟くように言った。
いまじゃないいつかの世界で、先を行くか引き返すかの選択を、瑞は迫られていた。そして選んだ道は…
別れ、だったのだろう。
「なんか…くらくらする。気持ち悪い」
伊吹が突然座り込み、口を押えた。
「大丈夫ですか?」
「なんか、一気に頭の中にいろんなものが押し寄せてきたみたいで、すごく疲れる…」
鳥居を離れ、頂上広場の木製ベンチに伊吹を座らせた。眩しい夕焼けの反射する海が見える。
「いまの体験が、夢だったのか何だったのかはわからないけど…」
伊吹が疲労しきった声で言う。
「おまえが、この山の神様たちから大注目されてるってことは、わかったな」
「…オロカだのシレモノだの、さんざんな言われようだったんですけど…」
それを聞き、伊吹が不安を吹き飛ばすようにして笑う。つられて瑞も笑う。しかし頭の中ではさまざまな憶測が飛び交っては結びついていく。
オロカでシレモノな自分は、監視されている。神様たちにとって、この世界のことわりにとっての秩序を乱す者として。
天命に背き、生き死にを繰り返す。いつかの世で、別の誰かだったころ、この先輩との別れを選択したことを、なかったことにするために。
「…俺の曾祖父の話をするよ」
唐突に伊吹が言った。もう笑ってはいなかった。
「え?この前言ってた、話さなきゃいけないことっていうの?」
「うん…俺の名前と、おまえの話だ…」
雨の音が、聞こえるような気がした。
どこか遠くの、忘れ去られた遠い場所から。
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作品名:あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6 作家名:ひなた眞白