あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6
彼の心境をもう少し知りたい郁だったが、そこに立ち入ることすら躊躇われるような雰囲気におされ、それきり言葉を切った。
(仲直り、したのかな…?)
伊吹はというと、正座してかけをつけている。いつもと同じに集中しているようだった。
夏の間、ずっとあった緊張感が、まだ二人の間には横たわっているようだった。そもそも一方的な喧嘩だと瑞は言うし、よくわからない郁なのだった。
(だけど…)
あの夏の終わりに、背中を震わせた彼の手を握りしめながら思ったのだ。繊細で傷つきやすい彼は、何か見えない苦しみに支配されていて、孤独に戦っているのかもしれないと。
「一之瀬、どうしたの。そんなに見つめないでくれる?」
「み、見つめてないよ。髪切ったから、へーって思ってみてるだけ」
ふーん、と瑞が笑う。そのちょっと意地悪な笑顔に郁はほっとするのだった。そして、その笑顔を見ると、嬉しさと一緒に感じたことのない切なさに苦しくなる自分を自覚する。
(好きなのかな?)
なんとなくそんな予感がしていたけれど、おいおい宮川主将はどうしたんだよと己に突っ込みを入れる。恋なんていうものはおきて破りが殆どだ。宮川主将に憧れつつ、瑞の持つ眩しい部分と仄暗い部分の二面性に、強烈に惹かれているのかもしれない。
「仲直りした?神末先輩と」
思い切って尋ねてみる。唐突な質問だったようで、瑞は一瞬間抜けな表情を見せた。そして気まずそうに眼を逸らし頭をかく。
「…わかんない」
「なにそれ」
作品名:あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6 作家名:ひなた眞白