あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6
膝をついた瑞は、そのまま両手と額を地面につけ、老人の前に伏した。身体が言うことを聞かない。ひざまづいて、ぬかづいて、それはまるで相手に敬意を示すように。強大な力に屈するかのように。
「すまないな…」
優しい、悲しい声が降る。顔を上げることができない。何か強烈な力に押しつぶされてしまいそうな瑞を、老人の声がすくいあげようとしてくれている。そんな感覚だった。
「苦しかったろう」
温かな手が、頭に触れるのがわかった。優しい仕草。
「もう、終わりにしても、よいのだぞ」
その瞬間、涙腺が壊れたかのように涙があふれて、地面にぼたぼたと零れ落ちていった。
その言葉がどんな意味であるのかはわからないのに、無性に悲しくて虚しかった。大切なものを手放せと諭されているような悲しい感覚。
身体が動く。瑞は顔を上げた。老人が穏やかな表情でそこにいる。瑞は、張り裂けそうになる胸を押さえて、呼吸を落ち着かせた。涙をぬぐって、老人と向き合う。
「あの、俺は、たぶん、前世であなたと出会っているんだよね?」
「前世…そうとも言えるかな」
「前世でもなんでもいいんだけど…教えてほしいんだ。俺って何なのかな。あなたにとって、それから伊吹先輩にとって何だったのかな」
聞きたいことが山ほどあるのにまとまらない。うまく話せない。焦ってしまって。
「…おまえは伊吹と、この上なくつらい別れを経験したのだよ。そのつらさと苦しさが消えずに後悔として残っているから、おまえの魂は幾度となくそれを改変しようと、伊吹を探しては生まれ、死んでいく。巻き戻して、やり直して。また巻き戻しては、繰り返す」
輪廻転生という言葉がよぎる。
作品名:あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6 作家名:ひなた眞白