あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6
その間も木々は囁き合う。畏怖をこめたような、そんな声色なのは気のせいだろうか。
与えられた運命を 歪めてもなお 生きていくのか
この先 同じように 繰り返し繰り返し 幾度も 別れて
哀れな 愚かな 痴れ者めが
空はもう濁っていた。厚い雲が世界を灰色に変えていく。伊吹の手だけは離すまいと、瑞は必死だった。伊吹は、もう完全に遊歩道を外れている。背の高い草が茂る道なき道を、目的があるかのように躊躇いなく進む。匂いがする。雨の匂いが。
「わかったよ須丸」
「え?」
前を見据え、歩みを止めずに伊吹が言う。霧が出てきたのか、辺りがうっすらと白くなっていく。同時に雨が降り出した。ザアと音を立てて、辺りを、二人を濡らしていく。
「学校の怪現象。あれは、おまえを探していたんだ。この山の者たちが」
探す?
「何言ってるの?先輩、一回止まって。お願い」
「神様の子どもを、覗きにきていたんだよ」
神様の子ども…?伊吹の足は止まらない。この手を離したらもう戻れなくなる。瑞は危機感でいっぱいだった。どうしていいのか、わからない。
定めの子らよ 雨を降らせる神の子と 神の子を喰らった罪子よ
罪は流れた 存在せぬことになった
与えられた命だけで なぜたりぬ 満足せぬ
いつまでそれを 繰り返す
道なき道のその先に、長い苔むした石段が見えた。雨でけぶって見にくいが、それがどこなの神社のような場所であることがわかる。
作品名:あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6 作家名:ひなた眞白