あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6
「なに、今の…」
全身が粟立つ。呼応するかのように、風がつよくなる。雲が出てきて、影ができる。薄暗い山が、ざわざわと鳴き始める。
目覚めた。
瑞は唐突にそう感じた。眠っていたものたちが、起きた。
「…呼ばれている」
伊吹がそう呟いたかと思うと、先陣を切って歩き出した。
「先輩、待って」
ざわざわざわ、と木々の音が大きくなる。まるで、囁いているかのようだ。伊吹のあとを追いかけながら、瑞はその囁きをはっきりと聞く。たくさんのものが、話をしている。
きたぞ きた
きたな この子らか
こんなのは幻聴だ。そうに違いない。そうに決まっている。耳を塞いでも聞こえてくるのはなんでだ。一体どうなっているんだ。
定めを歪めて 天命を放棄し 繰り返し生まれる子らか
愚かな なんと憐れな
(なんだよこれ…)
瑞は前を行く伊吹の手を取った。何かに憑かれたかのような彼が、このままもうどこかへ行ってしまいそうなのを防ぎたかった。伊吹はどんどん進んでいく。
作品名:あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6 作家名:ひなた眞白