あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6
「倉橋って一之瀬のこと好きっぽいな。いーの、おまえ。こんなとこで俺とのんびり登山なんかしてて」
あ、なんか意地悪なこと言われた。このひと結構アレだよな、と瑞は口を尖らせる。
午後、昼食をとったあと、瑞は伊吹とともに沓薙山の登山道を目指していた。制服でも気がるに登れる山だから、今日は荷物も持っていない。手ぶらだ。
「別に俺は…」
「ふうん。倉橋はいいやつだし、俺は応援しようかなあ」
「えーちょっと、先輩何が言いたいわけ?」
「べっつにい。もうちょっとおまえがもやもやすりゃあいいのになって思ってるだけ。一之瀬カワイソ」
なにそれ。
「一之瀬は宮川先輩が好きなんですってば」
「おまえまだそんなこと言ってるの?」
伊吹が笑った。快活に。何だか子ども扱いされているような気分になって、瑞は悔しくなる。
「それにしても、今日は静かだな」
天気だって悪いわけではない。土曜日の行楽日和だ。それなのに散歩するひとも、ランニングするひともいない。先週は平日だというのに、あれほど賑わっていたのに。
仕組まれたように二人きり。
そんな気がする。なぜだろう。ざわざわと木々が騒ぎ出す。風が出てきたようだ。異様な雰囲気が漂い、二人ともなんとなく無口になった。
「あ」
足を止め、登山道の入り口にある地蔵を見る。穏やかに目を閉じ、口元に微笑を浮かべている、お堂の中のお地蔵様。花や木の実が備えられている。
その地蔵の目が、開いた。瑞は突然の出来事に声も出せない。石を掘って作られたその無感動な窪みが、まっすぐに瑞を見つめている。
来たのか そうか おまえが
喋った…。
そんな気がした。しかし次の瞬間、地蔵は目を閉じ、ただそこで穏やかに微笑んでいるだけだった。
作品名:あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6 作家名:ひなた眞白