あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6
「まえの狐騒動みたいにけが人でも出る騒ぎになったら大変だって伊吹先輩が心配してるんだ。ちょっと裏山調べてみる。原因はもう、俺らの登山しか考えられないからさ」
そういえば、先週登った。あのときに何かきっかけがあったというのだろうか。
「あ、一之瀬も一緒に行く?」
ついでみたいに言わないでよ。
「…いい。あたし練習しなきゃ」
瑞に背を向けて、努めて素っ気なく言う。
練習、見てもらいたかったのに。
(なによ、あたし抜きで夕日でも見てくりゃいいのよ!いいよね須丸くんは、上手だから。あたしだって裏山行こうって、誘おうと思ったのに!)
ああ、嫌だ。何だろう。すごく性格悪くなってる。もうすぐ試合なのに、全然うまくいかない。こんなもやもや、弓引きまくって忘れてやる。
「一之瀬、俺みようか?手の内だっけ?」
二年生の先輩がにこやかに声をかけてくる。
「あ、倉橋先輩…お願いします。なんか全然矢が飛ばなくって」
「弓は何キロだっけ?」
「えっと今は12キロで…」
振り返ると、瑞はもういなかった。
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作品名:あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6 作家名:ひなた眞白