あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6
糸と糸
うだるような熱を残したまま、夏休みが終わった。なんとなく朝の匂いが変わったのを感じるが、まだ暑い日は続きそうだ。
九月の初めの朝練の日。主将の神末伊吹(こうずえいぶき)の隣に立つ「彼」の姿に、郁(いく)ら部員は息を呑んだ。
「副将の須丸瑞(すまるみず)です」
伊吹に続いて、就任の挨拶を始めた瑞は、豪快に髪を切っていた。ミルクティー色は変わらないが、ふわふわと顔を覆っていた髪は、眉や耳、うなじが見えるくらいに短くなっていた。おそらく自分ではさみを入れたのだろう。器用な彼は、郁の前髪を切ってくれたこともあるのだ。
随分思い切ったものだ。それは覚悟や決意の表れかもしれないと、郁は思う。夏の間、瑞はずっと悩んでいた。具体的なことはわからないのだが、何かを吹っ切ろうとして今日を迎えたのだということだけはわかった。
「副将としてうまく振る舞えるかどうかわかりません。でも、主将を助けて、この部が強くなるよう、真摯に弓と自分に向き合っていきます。よろしくお願いします」
瑞がそういって深く頭を下げた。再び顔をあげて部員と向き合った彼の表情、短くなった髪が整った顔立ちを際立たせているようで、ゾッとする凄みすら感じる。彼の変化のせいなのか、郁の瑞への気持ちの変化のせいなのか。何だか別人のように思えてしまって、郁は落ち着かない。
「…それ、自分で切ったの?」
「ウン」
稽古に入る前に声をかけると、彼はにこりともせず答えた。すっきりとした首筋がよく見える。横顔も、頭の形もすごくきれいだった。
「モヤモヤしてたから、心機一転」
「そっか…」
作品名:あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6 作家名:ひなた眞白