あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6
「閉めても閉めても開くんだって」
「うちのクラスも!」
「音楽の時間、ピアノの蓋が閉めても閉めても開いて、授業になんなかったの。誰も観てないときにね、開くんだって」
「保健室のカーテンもだよ。あたし具合悪い時寝かしてもらってて、ちゃんと閉めたのに、寝返りうつ間に開いてたの。きもちわる!誰もいなかったのに」
「家庭科室の赤ちゃん人形の目がね、ばちって開いたんだって!やばくない?」
奇妙なことが続いている。もう一週間になるだろうか。昼休みの食堂も、その話題で持ちきりのようだった。瑞は友人らとうどん定食に手を合わせながら耳をすませた。
閉じていたものが、勝手に開くのだという。
窓、扉、カーテン、棚、箱、蓋。引き出し、人形の目…。
(絶対裏山がらみだろうなあ)
先だって、狐の祠事件で顔見知りになったこの学校の用務員、浅田が言っていた。昨日、中庭で草むしりをしているところに声をかけると、教師陣から修理の依頼が殺到していることを教えてくれた。
『たてつけが悪いんじゃないかとか、金具が壊れてないかとか言われてもねえ…どこにも異常がないから直しようがないです。カーテンレールだって壊れてないし、ピアノの蓋なんてわたしの専門外ですし…。壊れているのではなく、誰かが開けて回っているのではないでしょうか』
誰かが開けて回っている。何のために?
不可思議なことが起きると、これはもうたいていこの土地が原因なのだ。いまのところ、閉じていたものが勝手に開く、という無害な現象だが…。
「須丸、ちょっといいか?」
食べ終わって雑談をしているところに、伊吹が現れた。食堂を出て静かな廊下で部活の伝達事項を聞く。こういうのはメールでもいいと思っていた瑞だが、こうして顔を見て話すことで文章では伝わらない感情や思いが感じられるから、今は必要だなと思えるようになった。
作品名:あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6 作家名:ひなた眞白