あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6
熱心に手を合わせているのは女生徒だけでない。登山者らが小さな祠に参拝していた。
「一番望むものねえ」
「お金とか?」
「おまえ夢ねえよ」
隣で友人らが笑うのを聞きながら、瑞は真剣に考えていた。
一番望むものか。金?権力?名声?永遠の命?昔話の定石ならばそんなところだろうか。
(俺なら…なにを望むかな)
突然風が吹いてざわざわと木々の葉を揺らした。何かふと懐かしいような気持ちになり、落ち着かなくなる。
何を望むだろう。失ったものを、取り戻せるのだとしたら、何を。
誰を。
「ん?」
「いま、なんか聞こえた?」
周囲がざわめく。鈴のような音を風の中に聞いた気がする。自分の名前を呼ばれたように感じたのは、気のせいだろうか。懐かしい声を聞いたような。錯覚。
「童子様かなあ」
「お願いきいてくれるかもね」
ドングリを拾っていた保育園児らがそんなことを言って笑い、周囲の者を和ませた。
「あとは頂上の天狗様と、逆さ地蔵か。狐塚は学校で見たな」
「逆さ地蔵って所在がわかんないって先生言ってたな」
作品名:あの日と同じに雨が降る 探偵奇談6 作家名:ひなた眞白